「だって、これ翠の初恋だったんじゃないのっ?」
誰よりも名残惜しそうにしていたのはユズだった。
ベッドで横になってスマホを触っている私に訴えるように話を続けるユズ。
「……あ、ここのバウムクーヘン美味しいらしいよ?」
SNSで調べた《京都観光》に出て来たのはおすすめのグルメスポット。
なんて事ないようにその画面を見せて共有すると、ユズはもどかしそうな表情で言葉を詰まらせていた。
「やっぱり王道の清水寺は絶対行きたいよねぇ。八坂神社とかは?来年受験生だし、学業の神様がいる所ないかなぁ…」
「もうっ、翠ってば!」
この数ヶ月間、一度も理人さんの事を忘れたりなんかしてない。
むしろ、今何してるんだろうと考えたり無意識にあのコンビニで来ない理人さんを待っていたり。
……あぁ、今頃理人さんは何してるんだろうか。

