いつも君のとなりで


「あ、それでね、広人がわたしをフッた理由、"気持ち悪い"の他にもう一つあってさ。わたしが広人よりも上の立場にいるのが面白くないみたい。"男のプライドを傷付ける女"とは、一緒に居たくないんだって。」

わたしは皮だけになった枝豆を空皿にポイッと投げ入れると、「こっちは真面目に仕事してるだけなのに、、、同じ部署の年下の子と浮気しておいて、何が"男のプライドを傷付ける女"よ。"男のプライド"があるなら、浮気してないで仕事しろっつーの。」と愚痴を零し、その愚痴と共に涙も溢れてきた。

「何ですか、そのフッた理由。松雪主任が"主任"という立場になったのは、仕事が評価されて任命されたわけであって、、、"男のプライドを傷付ける女"?その言葉、ダサ過ぎますね。」

普段クールで、淡々と話す糸師くんだが、その静かに落ち着いたように話す言葉のどこかには、怒りを感じた。

糸師くんはビールを飲むと、「許せないな、、、」と小さな声で呟いた。

「あ、ごめんね。こんな話し聞きながらのお酒なんて不味いでしょ?愚痴聞いてくれてありがとう!お礼にわたしが奢るから、飲んで飲んで!」

涙を拭い、わたしが明るくそう言うと、糸師くんは表情一つ変えずに「松雪主任。」とこちらを向いた。

「田岡チーフに、仕返ししてやりませんか?」
「え、、、仕返し?」
「あ、仕返しって言ったら言葉が悪いですけど、、、俺、このまま松雪主任が傷付いたままで終わるのは、許せません。」

"許せません"

その言葉は、嬉しかった。
でもわたしは、「何で糸師くんが許せないのよ。」と言って、笑って誤魔化した。

「だって、松雪主任は何も悪くないのに、松雪主任が原因みたいな理由を並べて、、、そんなの許せないです。」
「、、、ありがとう。自分のことじゃないのに、怒ってくれて。」
「松雪主任、俺に仕返しをする手伝いをさせてください。」
「えっ、でも仕返しって、どんな?」
「俺に任せてくれますか?」

そう言う糸師くんは、微かに表情を綻ばせた。

いつもクールで無表情の糸師くんが見せる、初めての表情。

わたしは、糸師くんに広人への"仕返し"を任せてみることにしたのだった。