「今日、たくさん歩いたので疲れてません?そろそろ寝ましょうか。」
耳元で響く糸師くんの声。
それは、一緒に寝るってことだよね?
誰かと、ましてや男性と同じ布団で寝るなんて何年ぶりだろう。
そんな時、まだ田岡チーフと付き合っていた頃、わたしに触れてこようとしない彼の背中に勇気を出して抱きつき、拒絶された事を思い出してしまった。
糸師くんがそんな人じゃないのは分かってる。
けど、心がそれをまだ"傷"として覚えてる。
頭では分かっていても、心がまだ追いついてきていなかった。
すると、一気に手汗がジワァっと滲んでくるのが分かった。
「松雪主任?どうしたんですか?」
わたしの異変に気付き、わたしの顔を覗くようにして心配してくれる糸師くん。
「ううん、、、何でもないよ。」
わたしはそう言ったが、糸師くんにはお見通しで、糸師くんは切なげな微笑みを浮かべながら「何か不安に思ってることがあるんですね。」と言った。
わたしは「大丈夫。じゃあ、そろそろ寝よっか。」と気持ちを切り替え、自分のバッグからタオルハンカチを取り出し、それを握り締めながら、糸師くんと共に電気を消したリビングから寝室へと移動した。
糸師くんは寝室に入ると、部屋の角に立ててある背の高いスタンドライトを点けた。
「どうぞ。セミダブルなんで、シングルよりは狭くないですよ。」
そう言って、手のひらを向けてベッドを指す糸師くん。
わたしはドキドキしながらゆっくりと前へ進み、ベッドの上へと上がった。
糸師くんもわたしに続きベッドに上がり、布団を捲ってわたしが布団に入れるようにしてくれた。
そして、わたしが布団に入りベッドに横になると、糸師くんも布団に入り、わたしの方を向きながら横になり、わたしの頬に手を触れてきた。
「松雪主任、、、これからは、奈央さんって呼んでもいいですか?」
糸師くんの言葉にわたしは「うん、いいよ。」と頷く。
すると糸師くんは「じゃあ、俺のことも下の名前で呼んで欲しいです。」と言った。



