休憩が終わり午後になると、わたしは総務課長の志田課長の元へ行った。
「志田課長、ちょっとご相談があるんですが、少しお時間よろしいですか?」
わたしがそう声を掛けると、志田課長は老眼の為に掛けている眼鏡を外し、頭の上に眼鏡を乗せると「いいよ。面談室に場所を移そうか。」と柔らかい口調で言ってくれた。
総務課長の志田課長は、定年手前の穏やかな課長だ。
わたしは、志田課長と共に事務所を出ると面談室に場所を移した。
「珍しいね、松雪さんが僕に相談なんて。」
志田課長はソファーに腰を下ろしながら、そう言った。
「それで、相談って?」
「はい、人事部の花村さんの件でご相談がありまして。」
「花村さん。まだ入社して一年経ってないよね?」
「はい。その花村さんなんですが、、、業務を放棄して、サボる癖がありまして、、、。わたしや田岡チーフが注意しても聞く耳を持たなくて、周りの総務課の社員たちからも不満の声が上がっているんです。」
わたしがそう話すと、志田課長は難しい顔をして「ん〜困ったね。」と口をへの字にしていた。
「それで提案なんですが、、、花村さんを営業二課に異動させてみるのは、どうかと思いまして。」
「営業二課?あぁ、、、小山田さんのところかぁ。」
「営業二課は退職者が出て、枠が空いているんです。」
「なるほどね。花村さんを、小山田さんに教育し直してもらうって策かな?」
志田課長はそう言うと、ニコリと微笑んだ。
「はい、、、志田課長は、どう思われますか?」
わたしがそう訊くと、志田課長は頷きながら「いいと思うよ。」と答えた。
「僕は、総務のことは松雪さんに任せているから、松雪さんがそう判断したなら、それでいいと思う。僕は、松雪さんを信頼しているからね。」
「ありがとうございます。」
「僕は、もうすぐ定年でこの会社を去る人間だから、僕のあとは松雪さんにお願いしようと思ってるんだよ。松雪さんなら、充分"課長"の器があると思っているからね。」
「いえ、わたしなんかまだまだ未熟で、、、。こないだも、会社の電話を壊してしまいましたし、、、」
「もっと自分に自信を持ちなさい。電話は壊れたら買い直せばいいだけだけど、松雪さんの代わりは、他に居ないよ。」
志田課長はそう言うと、優しく微笑み、頭の上の眼鏡を掛けると「さて、花村さんの辞令を作成しないとね。」と言い、立ち上がった。
「ありがとうございます。志田課長からのお言葉、、、わたしには勿体無いです。」
「本当に君は謙虚だね。そこも松雪さんの良いところだけど。」
そう言う志田課長は、わたしの肩をポンッと叩くと、先に面談室から出て行った。



