その日の仕事終わり、わたしはあの居酒屋へ向かっていた。
こじんまりとした、テーブル席が3つしかなくて、あとはカウンター席の焼鳥が美味しいお店。
わたしはいつも座るカウンターの一番端の席に座り、「すいません、レモンハイお願いします。」と言った。
そして、「お待たせしました〜!」と運ばれてきたレモンハイを受け取り、グイッと一口飲む。
けど、どうしてもお酒が美味しいと思えない。
それでも、わたしはレモンハイを飲み続けた。
テーブルに頬杖をつき、一人ぼんやりとする。
いつもなら、隣に糸師くんが居てくれて、わたしの話を聞いてくれて、わたしの代わりに怒ってくれたり、元気が出る言葉をくれていた。
課も違えば部署も違って、最初は糸師くんのことは"クールで近寄り難い人"というイメージがあったけど、本当は全然違って、不器用であまり感情が表に出ないけど、優しくて思いやりがある人。
糸師くんに会いたい、、、
そう思っていると、すぐそばに人の気配を感じ、そして「隣、いいですか?」と言う言葉が聞こえてきた。
「えっ?」
ふと横向き見上げると、そこには出張に行っているはずのスーツケースを持った糸師くんの姿があった。
「糸師くん、、、出張中のはずじゃなかったの?」
わたしがそう訊くと、糸師くんはわたしの隣の椅子に座り「仕事を早く終わらせて、帰って来ちゃいました。松雪主任が、何か元気なさそうだったので、、、心配で。だから、もしかしたらここに居るかなって思って来てみたら、的中でした。」と言った。
わたしが心配で、、、帰って来てくれたの?
糸師くんはわたしと、わたしの手元にあるレモンハイを見ると「またレモンハイで酔い潰れちゃったらどうするつもりだったんですか?飲みたい時は俺と一緒に居る時にしてください。松雪主任の介抱は、俺の役目なんで。」と言い、優しく微笑んだ。



