「松雪主任。」
「何?」
電話越しの糸師くんの声は優しく、わたしはもっと呼んで欲しい、あわよくば下の名前で、、、何て考えてしまっていた。
「出張から帰ったら、、、俺とデートしてくれませんか?」
「え、、、デート?」
「はい。俺、、、ここ最近、松雪主任とどう接していいのか分からなくて、、、。田岡チーフへの"仕返し"はもう完了したし、それって俺はもう必要なくなったってことだから、、、松雪主任と今まで通り仲良くさせてもらうのは、おかしいのかなって、、、。」
糸師くんも、、、やっぱり戸惑ってたんだ。
わたしは黙って、糸師くんの言葉に耳を傾け続けた。
「でも、松雪主任と接する機会が減ってから、、、何か、ぽっかり心に穴が空いたみたいな感じがして、、、気が付けば、松雪主任のことばかり考えてました。」
わたしは空を見上げた。
糸師くんもこの空の下のどこかに居るんだよね。
同じ空の下で、わたしと同じ気持ちで居てくれてたんだ、、、
「だから、、、もう田岡チーフのことは抜きにして、俺とデートしてください。」
嬉しかった。
糸師くんの真っ直ぐな言葉が嬉しかった。
でも、わたしが、、、いいのかなぁ。
気持ち悪いわたしなんかが、糸師くんと"デート"なんてしちゃって、いいのかなぁ。
「あ、返事は、、、すぐじゃなくて、いいので。考えておいてください。それじゃあ、俺そろそろ戻りますね。」
「あ、うん、、、頑張ってね。」
「ありがとうございます。じゃあ。」
そして、糸師くんからの電話は切れた。
本当は「はい。」って返事をしたかった。
でも、、、どうしても"気持ち悪い"の言葉が付き纏って、すぐに返事が出来なかった。
わたし、、、どうしたらいいんだろう。



