いつも君のとなりで


花村さんはわたしたちの目の前まで来ると、まるでわたしの姿が見えていないような素振りで「糸師さん、これからわたしとご飯行きませんか?」と言った。

「悪いけど、これから松雪主任と帰るところだから。」
「えぇ〜、いいじゃないですかぁ、松雪主任は!子どもじゃないんだから、一人で帰れますよね?」

花村さんはチラッとわたしの方を見ながらそう言った。

「田岡チーフは?付き合ってるんじゃないの?それなのに、他の男と飯行くんだ?」

淡々とした口調で糸師くんがそう言うと、花村さんは「ん〜、田岡チーフはキープですかね?」と悪怯れる様子もなく言った。

「キープ?随分、自分に自信があるんだね。」
「だってぇ、わたしの方が松雪主任より若いですし!確かに松雪主任は綺麗ですけど、わたしの方が可愛いと思いません?」

花村さんが自信満々にそう言うと、糸師くんは呆れたように鼻で笑った。

「全然思わない。花村さんって、誰かのものを欲しがって駄々をこねる子どもみたいだね。子どもだったら可愛いで許されるけど、社会人にもなってそんなことしてると、ただ醜いだけだよ。」

糸師くんがそう言うと、花村さんは顔を真っ赤にして悔しそうな表情を浮かべた。

「で、でも!松雪主任、手足に汗をかく病気があるんですよ?!触られたら、気持ち悪いだけですよ?!」

花村さんがそう言った途端、糸師くんの視線は冷たくなり「病気のことは知ってる。でも気持ち悪いのは、相手の気持ちも考えないで自分の欲求だけを満たそうとする花村さんの方だよ。」と言い放った。

その言葉に何も言い返せずにいる花村さん。

糸師くんは「松雪主任、行きましょう。」と言い、わたしは「うん。」と返事をすると、クルッと向きを変え、エレベーターがある方へと再び歩き始めた。

「ありがとう、糸師くん。」
「何がですか?」
「わたしが言いたかったこと、代わりに言ってくれて。糸師くんって、あんなに毒吐けるんだね。」

わたしがそう言うと、糸師くんは「大切な人の為なら、いくらでも毒吐きますよ。」と言った。

大切な人、、、?
それは、どうゆう意味での"大切"なんだろう。

そのあとわたしたちは結局、初めて一緒に飲んだあのこじんまりとした居酒屋へ行き、わたしはレモンハイで酔いつぶれ、糸師くんの介抱を受けながら帰宅したのだった。