「糸師くん、、、」
糸師くんはズボンのポケットに手を突っ込みながら、ゆっくりとわたしに歩み寄って来た。
「一緒に帰りません?」
「え、、、あ、うん。」
わたしがあんな態度を取ってしまったのに、待っててくれたんだ。
「もし、また飲みたい気分なら、付き合いますよ?」
糸師くんがそう言い、わたしは思った。
きっと、わたしに"何かあった"と思ってくれていたんだなぁ。
わたしはフフッと笑うと「今日はやめとこうかな。また飲めないくせにかっこつけて具合悪くなって、後輩に家まで送らせちゃうのかっこ悪すぎるし。」と言った。
「別にいいじゃないですか。俺にくらい、かっこ悪いとこ見せたって。」
糸師くんのその言葉に、ドキッとしまった自分がいた。
かっこ悪いとこ、、、見せてもいいんだ。
「それなら、とりあえず今日は帰りましょうか。」
「、、、飲みたくなったら、糸師くんに言うね。また、レモンハイ2杯で介抱させちゃうことになるかもしれないけど。」
わたしがそう言うと、糸師くんは微かに口角を上げ「いつでも誘ってください。」と言い、エレベーターがある方へ歩き始め、わたしはその横を歩いた。
すると、、、
「糸師さーん!」
後ろから聞こえてきた甲高く甘ったるい声。
その声の主は、振り向かなくても誰なのか分かってしまった。
糸師くんとわたしは同時に足を止め、後ろを振り向いた。
そこには予想通り、駆け寄って来る花村さんの姿があった。



