そして、資料保管室のドアを開けると、先客が居た。
「あ、松雪主任。」
「、、、糸師くん。」
糸師くんの姿を見て思い出してしまう。
"糸師さんにも言われちゃいますよ?気持ち悪いって"
さっき言われた、花村さんからの言葉。
自分が思ってる以上にわたしの心の奥深くまで突き刺さっているようだ。
「どうしたんですか?何かありました?」
「え?あ、ううん、何でもない。それより、糸師くんがここに来るなんて珍しいんじゃない?何探してるの?」
「取引先の名簿を探してるんですけど、なかなか見つからなくて。」
「あぁ、名簿ね。」
わたしはそう言って、糸師くんが探していた反対側の棚に回り、営業一課に関係する取引先名簿が保管されているファイルを取り出した。
「はい、これ。」
「さすが、松雪主任ですね。」
「総務課はよくここ来るからね。」
そう言って、ファイルを手渡す時、わたしの指先が糸師くんの手に触れてしまい、わたしは咄嗟に手を離してしまった。
すると、床にバサッと落ちるファイル。
わたしは指先が触れた瞬間思い出してしまったのだ。
"気持ち悪い"という言葉を。
「あ、ごめんね。落しちゃって。」
わたしは慌ててファイルを拾おうとしゃがみ込んだ。
すると、糸師くんもしゃがみ込み、「すいません、俺がちゃんと受け取らなかったから。」とファイルを拾い上げた。
それから、わたしの方に手を差し伸べたかと思うと、わたしの右手を握り締めたのだ。
「ちょ、ちょっと糸師くん。気持ち悪いからやめなよ。」
わたしが焦りながらそう言うと、糸師くんは落ち着いた様子で「やっぱり指先が触れたから、手を離したんですね。」と言った。
「だって、、、気持ち悪いから、わたし、、、」
そう言って、わたしは糸師くんが握り締めてくれた手を慌てて振り解いた。
「俺は、、、気持ち悪いだなんて思ってませんよ?"皆、最初はそう言う"と思われてると思いますが、俺は今までの男とは違うので。」
糸師くんはそう言うと、「名簿、見つけていただいてありがとうございます。」と会釈し、立ち上がると資料保管室から出て行った。
わたし、何してるんだろう、、、
糸師くんを拒絶するような行動を取っちゃって、、、
でも、、、糸師くんには"気持ち悪い"と思われたくない、その思いから反射的に身体が動いてしまったのだ。
糸師くんに会うの、ちょっと気まずくなっちゃったな、、、



