期日指定郵便

期日指定のシールには、「2011年3月5日」と書いてある。

小学三年生の私は、震災が起こる前に遡って、

この手紙を届けたかったんだ、そんなことできるわけないのに。

かすかに思い出した。

手紙が届かなくて、ひどく泣いた日のことを。

あの時は、期日指定郵便を知って、

「いいアイデアだ!」と思ったんだね。

私がすごく泣いたので、母は実家の隣の家でしたバーベキューの時の写真をくれた。

父と祖母が写っていた。

実家は津波で流されて、写真はそれしかなかった。

私は写真をもらって泣き止んだ。

満足したんじゃない。あきらめたんだ。

今も大切に持っている。



私は大阪に帰ってきた。

何もしないでいるよりも、仕事をしていれば気が紛れると思った。

母からの荷物が、まだ置いたままだった。

中には、野菜と手紙が入っていた。

『美咲へ

好きな仕事に就けたんだから、辞めるのはもったいないと思う。

けれども、どうしても無理なら帰っておいで。

お母さんはまだまだ元気だから、あなた一人くらい養えるから』

美咲の目から、何筋もの涙が溢れ出た。

『田舎で隣の家の人と会って、

バーベキューの写真を失くしちゃったと言ったら、

またくれたので送ります』とも書いてあった。

お母さん、その写真は私が持ってるよ。

荷物に入っていた写真を見ると、

それは以前母が見せてくれたものとは違うものだった。

バーベキューのテーブルを囲んで、

父と母と、まだ小さな私が三人並んで笑っている。

皆で仲良く笑っている写真は、初めて見た。

写真を胸に抱き締めた。

写真で満足なんかできない、また、あきらめるんだ。




私は毎朝出かける時、

下駄箱の上の二つの写真に

「行ってきまーす」と声をかけている。



「おかあさん、

いつか、期日指定郵便に過去の年指定ができるようになったら、

お母さんに手紙の返事書くね、

それと過去の自分宛てに、

先に親孝行しておかなきゃって書くよ」

そう思いながら、仕事を続けている。