もっと早く帰れば良かった。
あの電話が最後になるなんて、思ってもみなかった。
私は新幹線に揺られながら、
母との思い出に、もっと激しく揺さぶられた。
あまりにも突然すぎる。
まるで、だれかに騙されたような、そんな気がした。
もっと一緒にいたらよかった。
私には母しかいなかった。
母が一人で私を育ててくれた。
こんなに早く母と別れることになるなら、
母と一緒に暮らせる場所に就職するんだった。
春に私の就職祝いをしてくれたばかりだ。
まだ二か月しか経っていない。
少しも親孝行できなかった。
後悔の念が、頭の中で渦巻いていた。
新幹線の席は窓際にした。
ずっと外を眺めて、他の乗客に顔を見られないようにした。
トンネルを通過する時は、顔を伏せた。
窓に映る、ひどく腫れた自分の目を見たくなかった。
東京に着くと、真っすぐに母のいる病院に向かった。
母は安置所にいた。
伯父さんがすでに到着していた。
親戚は、この伯父さんとその家族しかいない。
お母さんに会った。
まだ、そこに生きているようだった。
膝から力が抜け落ち、お母さんにすがりついた。
声を上げて泣いた。
伯父さんが葬儀の手配をしてくれた。
ほんの小さな家族葬だった。
火葬場の煙突から立ち上る、揺らめく煙をぼんやりと見つめた。
母は故郷の宮城の墓に入る。



