君の世界は眩しかった。【完】

次に彼女を見かけたのは、二日後の昼休みだった。

校舎裏の小さな中庭。
誰にもあまり知られていない、僕の秘密の場所。
陽の光が差し込むベンチの上で、彼女は制服のスカートを揺らしていた。

「……また会ったね、絵の人」

そう言って、彼女は僕に手を振ってきた。
目立つ場所でもないのに、偶然だとは思えなかった。

「……なんでここに?」

「秘密。……って言いたいところだけど、たまたまね。ちょっとだけ、逃げてきただけ」

逃げてきた。
その言葉が、ほんの少しだけ胸に引っかかる。

彼女はカバンからコンビニのおにぎりを取り出して、ふわっと笑った。

「一緒に食べる? って言っても、1個しかないけど」

「……いらない」

「そっか。じゃあ半分こしよ」

勝手に半分に割ったおにぎりが、僕の手に押し付けられる。
驚く僕を気にせず、彼女は海苔のついていない方を口に運んだ。

「……そういえば、名前、まだ教えてなかったよね。私、幸野谷(こうのや)一花(いちか)っていいます!」

「……蓮。笹浜(ささはま)(れん)

「蓮くん、ね。……なんか、ぴったり」

「どこが?」

「静かで、でも、芯が強そうな感じ。……なんとなく、ミモザっぽい」

その言葉に、心が少しだけ揺れた。

彼女の口から“ミモザ”という言葉が出るたびに、
この心の奥に、小さな波紋が広がっていく。

僕の中で、彼女が少しずつ色を持ち始めていた。

それは、名前のない花に、色が灯るような感覚だった。