君の世界は眩しかった。【完】

名前も知らないその子と、少しだけ話をした。

好きな画家の話。
色の話。
夢の話。

不思議なことに、彼女の声はあの頃の一花にどこか似ていた。
けれど、それは過去じゃなくて、“今”の音だった。

「また会えるかな?」

そう訊かれて、僕はうなずいた。

「……たぶん、また絵を描いてると思うから」

「じゃあ、私も見に行くね。きっとまた会える」

彼女はそう言って、校門の向こうへ歩いていった。

その背中を見ながら、僕は思った。

「きっと、恋じゃない。まだこれは、なにかの“はじまり”でもない」

でも──
報われなかった想いを、ちゃんと“終わらせる”準備くらいにはなった気がする。

空が青かった。
蝉の声が響いていた。
季節は、止まってくれない。

それでもようやく、僕はその流れに一歩足を踏み出せた気がした。