作品が完成したのは、ゴールデンウィークの初日だった。
描き終えたあと、僕はふと、一花に連絡を取った。
「一花。君を描いた絵があるんだ。
見てもらえるかな?」
返事は、すぐに届いた。
「……うん。行く」
⸻
土曜日の午後、久しぶりに美術室で会った彼女は、少し大人びて見えた。
細い指先で髪を耳にかけ、少し照れたように微笑んでいた。
「……見せて?」
僕は黙って、キャンバスのカバーを外した。
彼女が言葉を失う。
描いたのは、舞台の上でも、日常でもない、“道の途中にいる”彼女の姿だった。
夕暮れの風に髪をなびかせ、足元はまだ不安定で、でもその目はまっすぐ前を見ている。
「……これ、私?」
「うん。夢に向かってる一花を、描いたんだ。
光じゃなくて――影も、全部含めて」
彼女はしばらく絵を見つめていた。
その目に、少しだけ光がにじんでいた。
「ねえ、蓮くん」
「……うん?」
「私さ、ずっと怖かった。
前に進むほど、誰かを失ってく気がして」
「……うん」
「でも、今わかった。私が失いたくなかったのって、君だった」
その言葉が胸に響いた。
だけどそれでも――僕は、笑って言った。
「それでも、君は前に進むんだよ。一花。
その先に、僕がいなくても」
彼女は、少しの間、黙っていた。
そして、小さくうなずいた。
「うん。……ありがとう」
その“ありがとう”が、たったひとつの“さよなら”だった。
描き終えたあと、僕はふと、一花に連絡を取った。
「一花。君を描いた絵があるんだ。
見てもらえるかな?」
返事は、すぐに届いた。
「……うん。行く」
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土曜日の午後、久しぶりに美術室で会った彼女は、少し大人びて見えた。
細い指先で髪を耳にかけ、少し照れたように微笑んでいた。
「……見せて?」
僕は黙って、キャンバスのカバーを外した。
彼女が言葉を失う。
描いたのは、舞台の上でも、日常でもない、“道の途中にいる”彼女の姿だった。
夕暮れの風に髪をなびかせ、足元はまだ不安定で、でもその目はまっすぐ前を見ている。
「……これ、私?」
「うん。夢に向かってる一花を、描いたんだ。
光じゃなくて――影も、全部含めて」
彼女はしばらく絵を見つめていた。
その目に、少しだけ光がにじんでいた。
「ねえ、蓮くん」
「……うん?」
「私さ、ずっと怖かった。
前に進むほど、誰かを失ってく気がして」
「……うん」
「でも、今わかった。私が失いたくなかったのって、君だった」
その言葉が胸に響いた。
だけどそれでも――僕は、笑って言った。
「それでも、君は前に進むんだよ。一花。
その先に、僕がいなくても」
彼女は、少しの間、黙っていた。
そして、小さくうなずいた。
「うん。……ありがとう」
その“ありがとう”が、たったひとつの“さよなら”だった。


