君の世界は眩しかった。【完】

𝕡𝕣𝕠𝕝𝕠𝕘𝕦𝕖

俺が初めて恋をした人は、笑顔がとびきり綺麗で、
だけど、誰にも本音を見せない人だった。

春のはじまり。
まだ冷たさが残る風が頬を撫でるたび、俺はあの日のことを思い出す。
薄くて、淡くて、儚いのに、どうしようもなく胸を締めつける記憶。

君と出会ったのは、放課後の美術室だった。
忘れ物を取りに戻った俺の視界に、ぽつんと佇む君の姿があった。
陽の光が差し込む窓辺で、君はじっと絵を見ていた。

「この絵、君が描いたの?」

そう言って微笑んだ君の声が、今でも耳から離れない。

あの日から、俺の世界には“色”が生まれた。
君と過ごす時間は、まるでキャンバスに絵の具が溶けていくようだった。

でも、気づいてた。
君の視線の先に、俺は一度も映っていなかったこと。
君が背負っているものに、俺は何ひとつ届かなかったこと。

それでも、俺は君に恋をした。
報われないとわかっていたのに、
それでも、君のことを――

「……好きだったんだ」

まるで、君の世界が、
この世界のどんな光よりも眩しかったみたいに。