君の世界は眩しかった。【完】

春が近づいていた。

校庭の桜の枝先が、ほんのりと赤みを帯びてきた頃、僕の心は、まだ冬のままだった。

一花と顔を合わせたのは、舞台から数日後の放課後。
彼女はまるで、何事もなかったかのように美術室のドアを開けた。

「……ねえ、蓮くん。どうして来なかったの?」

その声は静かで、笑っているように見えて、笑っていなかった。

僕は何も言えなかった。
理由はいくつもあった。でも全部、どこかで言い訳に聞こえる気がして。

「招待状、渡したよね?」

「……ごめん」

その一言しか出てこなかった。

一花はゆっくりと頷いた。怒ってはいなかった。
だけど、それが余計に胸に刺さった。

「初めてだったんだ。ステージから見た景色。……誰かにちゃんと見てもらいたいって、心から思ったの」

“その誰か”が、自分だったらいいと思った。
だけど、その願いはきっと、もう叶えられなかった。

「弟たち、泣きながら観てくれたんだ。“お姉ちゃん、かっこいいね”って。
だから、それだけで十分なはずなんだけど……」

そこで言葉が途切れた。

彼女の目に、涙はなかった。
ただ、寂しそうな声だけが、ずっと残った。