それから、美術室で一花と過ごす時間が少しずつ“当たり前”になっていった。
彼女はときどき何も言わずにそこにいて、僕は何も聞かずに絵を描いた。
言葉がなくても、居場所があるって、こういうことなのかもしれない。
だけど。
ある日、彼女は来なかった。
その次の日も、そのまた次の日も。
理由もわからず、僕はひとり美術室で待ち続けた。
彼女の声が、笑顔が、窓際の光と重なって、胸を締めつける。
一週間目の放課後、ようやく彼女の姿を見つけたのは、学校の裏門だった。
制服はしわだらけで、髪も乱れていて、いつもの明るさがまるでなかった。
「……蓮くん」
名前を呼ぶ声も、どこか細くて、かすれていた。
「ごめん、来れなかった。ずっと、弟が……インフルで倒れちゃって」
「……大丈夫だったの?」
「うん。熱はもう下がった。でも、私が寝てなくて……ちょっと倒れかけた。
バイトも休めなかったし、先生には怒られるし……」
言いながら、一花の目に涙が溜まっていた。
「……ごめんね、行けなくて。私ばっかり、勝手にしゃべって、頼って……」
その瞬間、胸が張り裂けるように痛んだ。
「……君が来ない日、美術室がすごく静かだった」
一花が顔を上げた。
「だから、謝らないで。僕はただ……君が、元気でいてくれたら、それでいい」
そう言った自分の声は、ほんの少しだけ震えていた。
彼女はしばらく黙って、それから、微かに笑った。
「ねえ蓮くん、やっぱり……ずるいよ、それ」
そして──その日、一花は初めて、僕の隣に立った。
まるで、世界がやっと“二人分”のスペースを許したみたいだった。
彼女はときどき何も言わずにそこにいて、僕は何も聞かずに絵を描いた。
言葉がなくても、居場所があるって、こういうことなのかもしれない。
だけど。
ある日、彼女は来なかった。
その次の日も、そのまた次の日も。
理由もわからず、僕はひとり美術室で待ち続けた。
彼女の声が、笑顔が、窓際の光と重なって、胸を締めつける。
一週間目の放課後、ようやく彼女の姿を見つけたのは、学校の裏門だった。
制服はしわだらけで、髪も乱れていて、いつもの明るさがまるでなかった。
「……蓮くん」
名前を呼ぶ声も、どこか細くて、かすれていた。
「ごめん、来れなかった。ずっと、弟が……インフルで倒れちゃって」
「……大丈夫だったの?」
「うん。熱はもう下がった。でも、私が寝てなくて……ちょっと倒れかけた。
バイトも休めなかったし、先生には怒られるし……」
言いながら、一花の目に涙が溜まっていた。
「……ごめんね、行けなくて。私ばっかり、勝手にしゃべって、頼って……」
その瞬間、胸が張り裂けるように痛んだ。
「……君が来ない日、美術室がすごく静かだった」
一花が顔を上げた。
「だから、謝らないで。僕はただ……君が、元気でいてくれたら、それでいい」
そう言った自分の声は、ほんの少しだけ震えていた。
彼女はしばらく黙って、それから、微かに笑った。
「ねえ蓮くん、やっぱり……ずるいよ、それ」
そして──その日、一花は初めて、僕の隣に立った。
まるで、世界がやっと“二人分”のスペースを許したみたいだった。


