過去に戻れるボタンの話。

 私の心の内を察したのか、機械的な声は続けてこう言った。「最終選択です。やり直しますか?やり直したい場合は【やり直す】ボタンを、やはりやり直さない場合は【やり直すことをやめる】ボタンを、1分以内に押してください。次に流れる発信音のあと、どちらのボタンも押さなかった場合は、自動的に18歳の8月に戻ります。」
 もう、猶予はなかった。やり直すことをやめない限り、これまで出会ってきた人との思い出も、これまで自分が積み重ねてきた時間も、全てがなかったことになってしまう。それだけは、耐えられなかった。

 「【やり直すことをやめる】」そのボタンを、泣きながら、でも必死な思いで押した。これまで過ごした時間をなかったことにしたくなかったのだ。これまで頑張ってきた自分のことを否定したくなかった。そして何より、私と出会って関わってくれた人たちとの交わりをなかったことにすることは、もう会えなくなることは耐えられなかった。