過去に戻れるボタンの話。

 ここ最近はどうもうまくいかない。「斎藤が作る広告ってさ、なんかキャッチーじゃないんだよね~、惜しいんだよな~」「広告賞取った割にはパッとしないね」そんな心無い言葉が、営業課の部長や制作課の役職者たちから飛んでくる。スランプなのだろう。上下関係のはっきりしたこの業界で、過度な自己主張をすることは身の破滅を招く。2年前に受賞した広告賞以外、大した実績のない私は、周囲から飛んでくる心無い言葉に耐えながら、目の前の仕事を懸命にやっていくのが最善なのだ。そう自分に言い聞かせて、会社のビルを出た。丸の内のイルミネーションは、腹が立つくらいに今日も煌々と輝いている。

 「バチン」そんな音が突然して、イルミネーションの光が消える。「もうそんな時間だっけ」たしかに、ある程度の時間を超えたら消灯されるけれど、今日はまだ明かりがついていてもおかしくないはずだ。
 不思議に思いながらも、終電まで時間のない私は、急いで地下鉄に向かう階段を降りる。まるで、自分の苛立ちを消すかのように強く強く地面を踏みしめながら。「終電間に合うかな」腕時計を見る。0時3分だった。終電の時間まで、あと少し。もうちょっと急がないと。焦りと苛立ちを感じながら階段を駆け下りる。

その瞬間。