過去に戻れるボタンの話。

 手元の時計は、0時5分だった。ほとんど時間は経っていなかったらしい。

 小さな家を出る。手元には、片方だけ折れたハイヒール。「さすがに、これじゃ電車に乗れないか。」自分の姿を客観視して、思わず笑ってしまう。今日は終電じゃなくて、タクシーに乗って帰ろう。

 地下道から地上へ上がる階段の方向へ、身体の向きを変える。さっきより増えた人。有名ブランドの紙袋を手に提げたカップル。走って階段を降りる疲れたサラリーマン。すれ違う人たちが、明らかに様子の違う私を一度見て去っていく。「そりゃそうか。」クリスマスイブの夜に、靴を履いていない女性が、地下道を歩いていたら誰だってびっくりするだろう。でも、今の私に、そんなことはどうでもよかった。