夜の市街地一周レース。ヘッドライトに照らされ、蓮のバイクが一斉にスタートを切った。風を切るたびに、鈴の「必ず戻ってくる」という言葉が胸に響く。路地の狭間、交差点の曲がり角、仲間たちとの駆け引き――全神経を研ぎ澄ませ、蓮は一台また一台を追い抜いていく。

しかしゴール直前、胸の奥で鈴の笑顔がフラッシュバックし、ほんの一瞬、視界が揺れた。ハンドルを握る手に力が入り、タイヤがギリギリで滑る。だが、蓮は冷静にアクセルを戻し、バイクを立て直す。そのままゴールラインを駆け抜け、トップタイムには届かずとも、確かな結果を刻んだ。

同じ頃、病室の窓辺で鈴は時計を見つめていた。レース開始の知らせから何度も携帯を確認し、胸の痛みをこらえながらも、外の夜風を感じていた。ふと遠くから響くエンジン音。鈴の鼓動は一気に高鳴り、ベッドから立ち上がろうとする。

廊下に飛び出すと、ガレージのライトを背に、蓮がバイクを降りる姿があった。汗と埃にまみれた総長の横顔を見て、鈴の目に涙が光る。蓮はヘルメットを外し、息を整えながらゆっくり歩み寄る。

「戻ったぞ…お前のところへ」
無言のまま、蓮は鈴の手をそっと握る。その手の温もりが、鈴に安心をもたらす。

「うん…ずっと、待ってた」
震える声で答えた鈴に、蓮は微笑みを返し、そっと額を寄せた。

夜の病院廊下に、二人だけの静かな祝福が降り注ぐ。
――どんなに遠くへ行っても、帰る場所はここにある。