夜の市街地、蓮のバイクが静寂を切り裂く。後ろに乗る鈴は、ヘルメット越しにそっと笑みを浮かべた。

「すごい…風、気持ちいい」

「お前を守ってる気分だ」

低く響く蓮の声に、鈴は安心したように背中を預ける。

二人は郊外の廃線跡へ向かった。錆びたレールが月光を反射し、幻想的な銀世界を描く。バイクを停めた蓮はヘルメットを脱ぎ、鈴に向き直る。

「初めて来たか?」

鈴は小さく頷き、そっと空を見上げた。

しかし、そのとき――鈴の胸に鋭い痛みが走る。息が詰まるように肩を震わせ、鈴は思わず蓮にしがみついた。

「蓮…苦しい」

慌てた蓮は鈴を支え、バッグから小瓶を取り出して水を飲ませる。夜風に混ざる心配の声が、鈴の意識を現実に引き戻した。

「ごめん…もっと、笑わせたかったのに…」

蓮の瞳に、初めて見せる弱さと焦りが揺れる。
鈴はかすかに微笑み、震える声で答えた。

「大丈夫。蓮といると、どんな夜も特別になるから…」

夜風が二人の影を揺らし、廃線跡に静かな誓いが刻まれる。

「必ず、もっと遠くまで――二人で行こう」

蓮の言葉は、暗闇にひと筋の光を灯した。