夜明け前の峠道。蓮と鈴は、それぞれのバイクに跨り、静かなアスファルトを駆け抜けていた。冷たい風が頬を刺し、ヘルメット越しの鈴の声が小さく震える。

「蓮…ここ、初めて来た?」

「お前と見るために選んだ場所だ」

蓮は淡い笑みを浮かべ、アクセルを捻る。テールランプが赤い線を描き、二人だけの夜が流れていく。

峠の頂上にある古びた展望台。鈴は震える手で銀のペンダントを握り締める。蓮はそっと彼女の手を包み込み、背中に手を回した。

「手、冷たいな」

「…でも、あったかい」

東の空が藍から茜へと移ろい、夜明けの光がゆっくりと世界を満たしていく。鈴の胸にいつもの痛みが走り、肩を震わせる彼女を、蓮は慌てて支えた。

「無理すんな。水、飲め」

小瓶から一口ずつ水を飲む鈴の瞳に、朝日の輝きが映る。

「蓮…これからも、ずっと一緒に光の先へ行きたい」

鈴の声は揺るがない。蓮は無言で頷き、ペンダントにそっと口づけした。

「約束だ」

夜明けの風が二人の影を長く引き伸ばし、希望の光が新たな試練をそっと照らしていた。