「愛美ちゃんってさぁ、今好きな人いるの?」
「え?」
同じ席にいるキャバ嬢の女の子に耳元で囁かれ、私は顔を上げる。
「だって愛美ちゃん、夏だよ夏!
私はね、今年の夏は彼氏と旅行行くって決めてるの♪」
「………」
そう言って手際よくカラカラとマドラーを混ぜ、まるで爽やかなアイスブルーの海そのもののカクテルが出来上がる。
……あたしは、それをじっと見つめていた。
………好きな人、かぁ……。
あたしも………
今頃はあの人と思いっきり夏を満喫出来ていたかな?
………なんて。
そんな馬鹿げた妄想を、ふっと笑ってすぐに頭から消した。
だってもう叶わないんなら、思い描いても仕方ない。
"あの人"は
もう、帰ってこない。
………だから
もう二度と会えない。



