─────あたしがすごく好きだった人は……
一言で言っちゃうと超が付くほど“憧れ”だった。
あたし、ほんとに大好きで大好きで仕方なくって。
キュウッて胸が焦げるような甘酸っぱい思いを何度も感じさせてくれた人。
彼は誰からも好かれて、誰からも愛される。
周りから尊敬されるくらいの人徳がある人。
優しくて面白くて、歌も上手かった。
初めて見た時は、芸能人なのかなって衝撃的だった。
だってそれくらいカッコ良すぎてね?
今でも本人は気づいてないと思うんだ。
だって自分がモテたりカッコ良いとか絶対自慢したりしない人だから。
今でも毎日忘れた事なんかない。
いつもいつも太陽の様な笑顔を振りまいて、あたしまで笑顔にしてくれた。
こんな………心が廃れた今のあたしとは正反対。
もうあの笑顔は、マキだけのもの。
あたしなんか、もう忘れられてるに決まってる。
「………」
ほんと………
好きになるにも、まず身分をわきまえろって感じだよね……。
太郎のハンドルさばきで“あの人”を連想しちゃうなんて、あたしバカだな。
あの人はもうマキの物なのに……。
いい加減自覚しなきゃ。
嫌でも、あの人が選んだのはマキなんだし……。
……………。
じわっ………。
ヤバ、泣きそう……
ふいに泣きそうになるのを何とか堪え、あたしは嫌な事を無理矢理振りきるかの様に太郎に話し掛けた。
「ねぇ、太郎は昼何してるの?」
「え……オレですか?
愛美さんと同じで学生ッスよ。」
「へぇ、何の勉強してるの?」
「うーん、ザックリ言うと今は…………。
そうですね、海についてです。」
「え………」
…………海?
あたしは太郎の予想外の返答に、思わず涙が引っ込んだ。
だって、海って………。
たまたま、何となくぶつけた質問だったけど。
いい具合にさっきまでの悲しさを吹き飛ばしてくれた太郎に、あたしは逆に興味が湧いた。



