DEEP BLUE




「は、浜崎あゆみ………」




オドオドと答えたあたしに、彼はミラー越しに目を細めて笑った。



「いいですよね、オレも良く聴きますよ♪
何の曲ですか?」



「え、Moments……って曲だけど……」





当時、浜崎あゆみはカリスマ的存在だった。


ファッションや見かけは、みんなしてこぞって真似していたくらいだし、彼女の書く詩、曲などシングルやアルバムを出す度に爆発的ヒットを連発していた。



あたしも、そんな一人だった。





「Moments、か。今度聴いてみます♪」 



「うん、いい曲だよ。今のあたしの……」




そこでハッと我に戻り、口をつぐんだ。




「え?何ですか?」



“心境に似てる”って言いそうになったからだ。



この頃のあたしは、イヤホンで音楽を流し外の世界をシャットアウトする事で自分を保っていた。


特に自分が共感する曲や、自分の状況と似ている歌詞などを見つけてはひたすらそれを流し、自分だけの世界に入り浸っていた。




………───────音楽に救われていた。





「ううん、何でもない……」




慌てて視線を逸らし、咄嗟に自分の足元を見つめた。



高いヒールと、太腿に置いた自分のキラキラ輝く指先が視界に映る。






─────あたしってば………



何話そうとしてるんだろ、こんなよく知りもしない人に。



ふぅっと冷静さを取り戻し、何気なく前を見つめた時だった。







「───愛美さんって、すごく綺麗ですね。」





「え……?」






バックミラーに映る、彼の瞳があまりにも真っ直ぐで。





不覚にもそんな事言われるなんて思ってもいなかったから、胸がザワついた。




綺麗って、あたしが……?






「────愛美さん?」



「え、あっ…ごめん……。そんな事お客さん以外に言われたことないから驚いちゃって……」





えへへと笑うあたしを見て、彼はプッと吹き出した。