ギター部の恋愛事情

 認めん!俺は絶対認めんからな、あの女は嫌いなんや!

 自分の気持ちに気付き始めてから、常にこう思うようになった。今日もそう自分に言い聞かせていた時、運がいいのか悪いのか、大沢さんが前からやって来た。

 「スーさん!」大沢さんが声をかけた。上田は、自分の気持ちに気付いてから大沢さんと話すのは初めてなので、出来るだけ平然とするためにいつもと変わらないように気を付けて、「おー!女、なんや?」と言った。大沢さんは前に話した時より戻ったことに気付き、「あ、話してくれるんですね!なんかあったんですか?」と聞いた。上田は、咄嗟に「なんもないで、」と言った。すると大沢さんは「なんか、話してくれなくて寂しかったですし、何かあったのかなって心配でした。」上田は、その言葉を聞き、今まで必死に守り隠すために覆っていた心の仮面が剥がれ落ちてしまったようだった。話せなくて寂しかったとか、心配してました。とかその一言で、俺は、何か隠さなくていけないものを隠すことができなくなった。

 そして、無意識に出た言葉「え、」彼女の言った一言で、大沢さんにも気があるかもしれないと考えた瞬間、なんか急にドキドキするような気がした。きっと気のせいだ。この動揺する気持ちを誤魔化すように、「女急にどうしたんや?」と早口で言った。すると大沢さんは「本当のことを言っただけですよ。無視したの酷いです!」と言った。上田は普段なら、絶対そんなことを言わなかったはずだが、頭で考えることよりも心は正直で、考えるよりも先に「あ、ごめん、悪かったな」と謝った。すると大沢さんも意外だと思ったようで、「え、上田先輩が謝るなんて珍しいですね。」と言った。上田は、「まぁ、」と言ったがその先の弁解の言葉が出てこなかった。焦っていたのか気持ちが顔に出ていたようで、「先輩?なんか顔赤くないですか?熱とかあるんですか?大丈夫ですか?」と大沢さんが聞くと、上田は慌てて、「大丈夫、大丈夫やから、」と言った。

 やばい、俺は認めたくない、認めたくないのに、何故か心は正直で、これは、恋だとしか考えられないほど、心臓の音がうるさいくらいにはっきり聞こえる。

 ここからのことは、衝動的で、無意識だった。

 「あ、女、待って、」静かな場所だっただけに、俺の声が響いた。大沢さんは、不思議そうに「どうしたんですか?」と聞いた。すると上田本人も驚くほど真面目に、真剣に、「今まで、お前のこといじったりとかして、悪かった。ほんまにごめん。俺は、お前のことが好きみたいやわ。」大沢さんは、びっくりして、話の途中だけど遮るように「え!本気で言ってます?」と叫んだ。すると上田は話の続きで、「やから、もしよかったらお前の気持ちを聞かせて欲しい。」と言った。大沢さんは、今まで上田に対してそんなことを考えたことがなかったし、いつもみたいに冗談かもしれないと思ったけど、いつになく真剣に話している上田を見てとても冗談だとは思えなかったので、大沢さんも真剣に答えた。「少し考えさせてください。上田先輩のことそんな風に考えたことがないのでまだ分からないです。」上田は、不安な気持ちがバレないように「おう、分かった。」と言った。