あぁ…重いなぁ。

私は階段の踊り場で、よいしょと重い本を持ち直した。


6月に入ったある日の放課後。

図書委員の仕事で、1人本を運んでいた。


台車だと階段使えなくて遠回りになるからって、手で持っていくことにした数分前の自分に怒りたい。


これは重すぎる。
次は台車使おう…。

気合いを入れ直して、再び足を踏み出した時。


「川原先輩?」

名前を呼ばれて、ふと見ると階段の下に名倉くんがいた。


「どうしたんですか?」


会うのいつぶりだろと思ってるうちに、階段を駆け上がって私のところまで来る。


「あ、ちょっと図書委員でね、本の整理してて。廃棄する古い本を運んでるの」

「めちゃくちゃ重そうですよ」

「うん…重い」

「台車なかったんですか?」

「あったんだけど…」


恥ずかしくてその先が言えない。


黙っていると、名倉くんが手を伸ばしてきて、私の手元から半分以上本を取った。


「え、」

「手伝います」

「だ、大丈夫だよ。名倉くん図書委員じゃないんだし」

「そんな重そうにしてるの無視できないですから」

「いやでも、」

「さ、行きましょう。こっちですか?」


躊躇う私を置いて、名倉くんは今上がってきた階段を降り始めた。

慌てて後を追って、隣へ並ぶ。


「ありがとう」

お礼を言うと、ニコッと笑顔が返ってきた。


「重くない?私、もう少し持つよ」

「全然平気です!僕力持ちなんで」

「…ありがとう」


年下だけど、私より背は高いし、当たり前に名倉くんの方が力はあるよね…

何も言わずに本を持ってくれた時、ちょっとドキッとしちゃった。



「先輩、僕に会えてよかったですね」

「え、それは…うん」

「僕も先輩に会えてよかったです」

「え、どうして?」

ん?と首を傾げる。


「先輩のこと助けられたし、それに…」


パチッと目が合う。


「会いたいなぁって思ってたから」