その場に残された私と愛ちゃん。

「…え、待って待って、何今の」

状況が飲み込めない私の横で、「あーなんかわかったかも」と愛ちゃんが呟いた。

「え、なに愛ちゃん」

「2人の話ちょっと聞こえたんだけど、お礼したいとかなんとか?」

「うん、でもほんとに、ただ電車でスマホ拾ってあげただけでお礼なんて…。私も忘れてたくらいなのに」

「ふーん、なるほど」

「何がなるほどなの?教えて」

「いやーあのね、牧原くんの用事、別に放課後の部活の時でも良い内容だったから、なんでわざわざ?って思ったの。けど、あの子が結月と話すためだったんだなぁって」

「え?」

「結月の友達の私と面識がある牧原くんに頼んで、話す機会を作ってもらったんじゃない?ほぼ初対面の先輩の教室に行くってなかなか勇気いるもんねぇ」

「にしては、結構勇気あること言ってたよね?一緒に帰るとか…え、愛ちゃん、私今日、あの子と一緒に帰るの?」

「みたいだね」

「嘘でしょ…。なんで?私なんかした?」

スマホ拾ってあげただけなのに。

なんで、お礼をするから一緒に帰ろう、になるの?

意味わかんないよ〜。

「したんじゃなくて、されたんじゃない?」

愛ちゃんがニヤリと笑う。

「…されたって何を?」

問いかけた私に、愛ちゃんは間を置いた後、「ひ・と・め・ぼ・れ」と囁いた。

「え⁉︎」

「まぁ私のただの想像だけどね」

「え、ねぇ愛ちゃんも一緒に帰らない?」

「私、部活あるもん」

「だよね…」

「頑張って、結月」

「うぅ、」

授業始まるから席戻ろ、と愛ちゃんに背中を押されて戻ったけど。

放課後のことが気になりすぎて、午後の授業は全然頭に入ってこなかった。









「じゃあ私部活行くね」

放課後、ゆっくり帰る支度をする私のもとに来た愛ちゃん。



「うん…行ってらっしゃい」

そう言うと、暗いなぁ、と苦笑される。

「大丈夫だよ。さっきは一目惚れとか変なこと言っちゃったけど、お礼してくれるってだけでしょ?」

「別にそんなのいいのに…」

「せっかくだから何か奢ってもらいなよ」

奢ってもらうって…。
先輩が後輩に?

じゃあね、と愛ちゃんは部活へ行ってしまって、1人教室に残された私。

しょうがなく教室を出て、下駄箱へ向かう。

お昼休みのあれは夢で、いなかったらいいなぁなんて思いも虚しく、男の子はきちんと2年生の下駄箱のところで待っていた。