「あぁ、部活の後輩の子だ!え、何の用だろ」
「あと、結月ちゃんにも一緒に来てほしいみたいだったよ」
「へっ?私?」
関係ないと思って、愛ちゃんに行ってらっしゃいと言おうとした私は、思わず変な声が出た。
「なんで?」
「結月、牧原くんのこと知ってるの?」
「いや全く」
牧原くん、って名前すら初耳なんだけど。
「とりあえず行こ」
牧原くんのもとへ歩いていく愛ちゃんの後ろを付いていく。
愛ちゃんだけじゃなく私にもって、なに?
「牧原くん」
「椎木先輩。すみません、お昼休みに」
「ううん、どうしたの?」
「これなんですけど」
愛ちゃんの横で牧原くんに視線を向けていたら、「あのっ」と私の前に誰かが立った。
ふと目を向けると、まっすぐに私を見ている1人の男の子。
「あの、僕、1年の名倉春樹です!この間はありがとうございました!」
「……え?」
え、なに。誰。
キョトンとしていると、男の子はさらに続ける。
「この間、スマホ拾ってもらって。あの、電車に置き忘れてたスマホ」
「……あ、あぁ!」
思い出した。
確かにあった、そんなこと。
このまっすぐな瞳、そうだ。覚えてる。
「あの時はありがとうございました!」
「いえいえ、そんな」
「あの、お名前教えてください」
「え、私の?」
「はい!」
「え、あー、川原結月です」
「かわはらゆづき…」と男の子が繰り返す。
「えっと、」
「川原先輩、お礼をさせてください!」
「え、お礼?」
「はい」
「いや、いいよそんな」
「いやさせてください!今日、一緒に帰りませんか?」
「えっ⁉︎」
突然の誘いに思わず声を上げてしまった。
チラッと横を見ると、愛ちゃんもびっくりして見てる。
「いやあの、ちょ、」
「今日用事ありますか?」
「え、いや…ないけど」
「じゃあ一緒に帰ってもいいですか?お礼したいので」
「え、いや待っ」
キーンコーンカーンコーン…
私の声を遮って、午後の授業の予鈴が鳴り響く。
「名倉、そろそろ戻らないと」
「うん。…じゃあ川原先輩、放課後、2年生の下駄箱の前で待ってるので、よろしくお願いします!」
一気にそう言うと、私が止める間もなく走って帰っていってしまった。



