「それで、先輩とどうだったの?」


放課後デートの翌日。

お昼休みに、友達の椎木愛ちゃんが突然尋ねてきた。

2年続けて同じクラスの愛ちゃん。

村井先輩のことは話してて、いつも相談にのってくれてる。



突然の質問に、飲んでたお茶を吹き出しかけた私は、なんとか堪えて「どうって?」と返した。


「昨日、一緒に帰ったんでしょ?」

「…うん」

「報告待ってるのに、全然言ってきてくれないんだもん」

「ごめん…言えるほど進展がなくて…」

言いながら、私はガクッと項垂れた。


結局、デートは大した進展がないまま終わってしまった。


「えぇなんで?」

「んー…なんか、どうしてもあと一歩踏み出せなくて」

「うん」

「好きバレが怖くて、気まずくなったりしたらやだなぁとか思うと、当たり障りのない会話しかできなくて…。先輩が私のことどう思ってるのか、いまいち分からないし…」

「うーん、誘ってOKしてくれるってことは良く思ってくれてると思うけどねぇ」

「でも先輩から誘ってくれたことない…」

「それは、まぁうん確かに、向こうから誘ってほしいよね、たまには」

愛ちゃんが、うんうんと頷く。


「何なんだろうなぁ」

私のために、真剣に考えてくれてる。


「彼女はいないんだもんね?」

「いない…と思う。聞けてないけど」

「やっぱりそこは確認したいとこだよね」

「うんそうなんだけど…」

分かってる。

頭では分かってるんだけど、いざ先輩を目の前にすると、どうしても思い通りにいかない。

聞きたいことが聞けない。


「他の人を考えるつもりはないんでしょ?」

「え、他の人?」

思わぬ言葉に、愛ちゃんの顔を見る。

「そう。結月のこといいなと思ってくれてる人」

「いやっそもそもいないし」

「佐藤くんとかは?去年、終業式に告白してくれた」

「えっいやぁ…」

考えられない。

佐藤くんが嫌とかじゃなくて、今の私の頭の中は、どうしても村井先輩でいっぱいで…。


「ごめん、そんな悩まないで。例えばの話だから」

「うん、」

「結月が先輩のこと諦めたくないって言うなら、私は応援するから」

「愛ちゃん…ありがとう」

去年からずっと、愛ちゃんはほんとに親身になって私を応援してくれてる。

自分の恋愛はそっちのけで、私の恋愛成就のために必死になってくれる。


愛ちゃんのためにも、って言ったらおかしいけど、でもまだ諦めたくないから。

だから頑張るよ、私。



そう心に誓った時、クラスメイトの女の子が愛ちゃんに話しかけてきた。

「愛ちゃん、なんか男の子が呼んでるよ」

「男の子?」

「牧原ですって言ってた」


教室の入り口の方を見ると、そっと顔を覗かせてる男の子がいるのが見えた。