二学期が始まった9月のある日、休み時間に私は愛ちゃんと廊下を歩いていた。
「あ、名倉くんじゃない?」
愛ちゃんの声にドキッとして顔を上げると、向こうから名倉くんが歩いてくるのが見えた。
名倉くんへの気持ちを自覚してから、会うのは初めて。
気づくかな…と思ってると、パッと目が合って。
手を振ろうとしたら、名倉くんはわざとらしく目を逸らした。
え?
そのまま手前で角を曲がって、姿が見えなくなってしまった。
「あれ行っちゃったね」
「…」
「結月?」
思わず立ち止まってしまった私に、愛ちゃんが振り返る。
「…今、目逸らされた」
「え?名倉くんに?」
「うん…」
ショックで言葉が出ない。
「え、どうしたんだろ?何かあったの?」
「ううん、何も…」
夏期講習の時に会って話してからLINEもしてなくて、理由なんて思いつかない。
急にどうして?
「たまたまだよ、きっと」
「そうかな…」
「何か急いでたのかもしれないし、もしかしたら気づいてなかったかもしれないし」
「うん…」
「大丈夫だって!」
そう言って愛ちゃんは励ましてくれたけど…
それから、なんとなく名倉くんに避けられてるような気がする。
会わないから勝手にそう感じてしまうのかもしれないけど、だから余計にこの前の反応が気になってしまう。
廊下。食堂。下駄箱。図書室。
気づいたら名倉くんを探してる私がいた。
それでもなかなか会えないまま、日にちだけが過ぎていく。
寂しい。
このまま話せなくなっちゃうのかな。
そう思ったら、私の全身が“嫌だ”と叫んでいた。



