“先輩に想いが届きますように ゆづき”
名倉くんと話した日。
家に帰ってから、スマホの写真フォルダを遡った私は、そう書かれた絵馬の写真を見つけた。
「去年の12月…」
元気なさそうな男の子に、励まそうとして変なことを言ってしまって。
余計なこと言っちゃったって後悔して。
うん、そうだ。思い出してきた。
改めて記憶を辿ると、たしかにそんなことがあった。
でも、その子が名倉くんだったかどうかなんて、さすがにそこまでは…
“あの時の川原先輩の言葉がすごい心に響いたんですよね”
そんな大したこと言ったつもり全くなかった。
なのに、あのことが名倉くんにとっては、そんなに大切な出来事だったなんて…
・
名倉くんの衝撃告白を愛ちゃんに話したら、ものすごく驚いた。
「一目惚れじゃなかったんだね」
「うん、まさか会ったことあったなんて思いもしなかったよ」
「ほんとだね」
私も愛ちゃんも、一目惚れだって思い込んでた。
「そんな深い想いが隠されてたなんて」
「うん」
「結月の言葉に惹かれて、頑張る源になって、再会して想いを伝えてくれて」
やだなんかドラマみたい、と愛ちゃんが頬に手を当てて言う。
「愛ちゃんってば」
恥ずかしい。
愛ちゃんが、でもさ、と言う。
「すごいことだよ。誰かの力になってることも、こんなに想ってくれる人がいることも」
「…うん、そうだよね」
「きっかけは何気ないことだったかもしれないけど、名倉くんにとって結月が特別な存在なように、結月にとっても名倉くんは特別なんだと思うな」
愛ちゃんはそう言って嬉しそうに微笑んだ。
特別。
その意味を考えるうちに、私はやっと気づいた。
今まで、なかなか村井先輩に好きになってもらえなくて、自分に自信がなくなって、それでも諦められなくて。
いつからか、一緒にいて楽しいのと同時に辛くなってた。
きっと、“先輩を好き”という気持ちよりも、“好きになってもらう”という目的の方に必死になってたから。
ほんとに好きなのかを見失っていたんだ。
名倉くんと出会って仲良くなるにつれて、気持ちのズレみたいなものを少しずつ感じていたんだと思う。
名倉くんといると純粋に楽しい。
自信とかそんなことどうでもよくて、そのままの自分でいられる。
そんな人に出会えたこと。
それが、特別ってことだよね。
じわじわと胸の中が温まる。
少しずつ、でもはっきりと形作られていく、名倉くんへの気持ち。
夏期講習が終わり、夏休みも残りわずかとなった頃。
夏休みが明けたら、今度こそちゃんと返事をしよう。
私はそう心に決めた。
なのに…



