「先生、めちゃくちゃ驚いてましたよ。カンニングしてないよなってちょっと疑われたくらい」

「え、してないよね?」

「してないですよ!実力です!というか、先輩が教えてくれたおかげです」

ありがとうございます、と頭を下げる名倉くんに対し、私もペコッと返した。



名倉くんは見事にテストで60点を超えることができ、デートをすることになった。


正直、デートをOKした後、ほんとにOKして良かったのか、やっぱり悩んでしまって。

愛ちゃんに相談したら、
“私に聞かなくても、もう答えは出てるんじゃない?”と言われた。

“え?”

“結月の顔見てたら分かる。ちょっと嬉しそうだもん”

“え、嬉しそう…?”

“うん。名倉くんとデートしたくないわけじゃないでしょ?”

“それは…”

愛ちゃんの質問に言葉が詰まる。

“失恋したばっかなのに…。私、なんかよく分かんなくて…”

“なら、分かるために行ってきたら?”

“分かるために?”

“行動したもん勝ちって言うでしょ。行ってきな、結月”



…ということで。

夏休みに入って最初の土曜日。

愛ちゃんの強い言葉に背中を押された私は今、名倉くんの隣にいる。

「わぁすごい、デカい!」

名倉くんは、水族館の一番大きな水槽の前で、感動の声を上げた。

定番のデートスポットに、ちょっと恥ずかしくなってる私に対し、テンションが上がって瞳が輝いてる名倉くん。

「サメみたいなのいますよ、ほらあそこ」

「ほんとだ、大きい」

大きい魚に興味があるのかと思いきや、

「あ、こっちペンギンですよ!」

「泳いでる、可愛い〜」

「気持ちよさそう」

スイスイ泳ぐペンギンをじーっと目で追ったり。

「うわ、クラゲがたくさんいる!」

「光が当たって綺麗だね」

幻想的な展示がされてるクラゲの写真をたくさん撮ったり。


水族館を見終わって、休憩がてら入ったカフェで、「あー楽しかったですね!」と名倉くんが満足げに言った。

「だいぶはしゃいでたね」

「はしゃいじゃいました。すみません、1人で勝手に」

「ううん、私も楽しかったよ」

「ほんとですか、よかった」

ホッとした顔を見せる。

「水族館好きなの?」

「好きです!水族館とか動物園とか、生き物見るのが好きなんですよね」

「そうなんだ」

新たに知った名倉くんの好きなもの。

今日一緒に出かけたから知れたことだ。


「お待たせしました、フレンチトーストです〜」

頼んだフレンチトーストを持ってきた店員さんが、ごゆっくりどうぞ、とお辞儀をして帰っていく。

「うわぁ美味しそう」

思わず声が漏れる。

「美味しそうですね!」

「いただきまーす」

口に入れると、ふわふわ感と絶妙な甘さに顔がとろけそう。

「川原先輩、幸せそうな顔してる」

「幸せだよ〜、美味しすぎる」

「なんだか、一緒にパンケーキ食べに行ったの思い出しますね」

「あー学校の帰りに行ったね。ほぼ初対面でね」

そう言うと、名倉くんが苦笑いした。

「僕なりに頑張って誘ったんですよ」

「うん分かってるよ。でもあの時はほんとにびっくりした」

「すみませんでした…」

「なんで誘ってくれたの?」

いつも勇気が出なくて聞けないような質問が、なぜかさらっと口から出てきた。

「なんでって…川原先輩と、仲良くなりたかったからです」

「仲良く…ってなんで?」

「えっそれは、気になってたからというか、まぁそんな感じです」

「そっか、」

照れ隠しなのか、口いっぱいにフレンチトーストを頬張る名倉くん。

私も恥ずかしくなって、名倉くんの真似をしてパクッと食べた。