ジューススタンドでドリンクを買って、そばにある公園に行く。


「あー美味っ、生き返る〜」

ベンチに座って、横で幸せそうな声をあげる先輩。


「それ、桃ですっけ?」

「うん。甘くて美味い。頭使ったから糖分補給しないとね」


ハハッと笑う先輩に、私も笑い返す。


すごく幸せな時間。


それなのに、さっき下駄箱で見た光景が頭に浮かぶ。



こうやって仲良くしてる女の子は、私だけじゃなくて、他にもいるのかな。

さっきの人とは、どういう関係なんだろう。



この前、愛ちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。


《はっきりしない状態が続くのって辛くない?》

《結月のこと好きなの?どうなの?って私が問い詰めたくなってきた》



いつも肝心なことを聞けないままで、モヤモヤが残ってしまう私。


愛ちゃんほどの勇気はないけど、でもいつまでもこのままじゃダメだ。

今日こそ。




「あの、先輩、」

「うん?」

「さっき…下駄箱で私を待ってる時、話してる人いましたよね」

「ん?…あぁー」

「人がいたので、ちょっと行きづらくて」

「あー…ごめん、全然気づかなかった」

「いえ、それはいいんですけど、…」


落ち着け、私。

ただ聞くだけ。大丈夫。



「クラスの人ですか?」

「え?」

「なんとなく仲良さそうだなぁと思って、」


ドキドキしつつ問いかけてみると、言葉を濁しながらも返ってきたのは。



「あー…元カノだよ」


「え……あ、そうなんですね、」


私は思わぬ答えに動揺した。



今まで知りたくても聞く勇気がなかった先輩の恋愛事情。

それが急に目の前に来て、ドキドキが加速する。



「別れてからも仲良いんですね、」

「んーまぁ」


曖昧な返事。


「…あの、今はいるんですか、彼女」

「いやいないよ、今は」

いたら2人で帰ったりしないでしょ、と先輩が笑う。



「あ、そうですよねぇ、」

「でも」



「しばらくはいいかな、そういうの」


聞こえた言葉に、私は耳を疑った。



「え…しばらくは…」

「うん。ちょっと疲れたし、今は彼女作るとかそういうのいいかなぁ」

「…」



え、それって…それって、じゃあ私は?

私とも付き合うとかそういうことは考えてないってこと?

それなら私ってなんなの?


先輩にとって、私って…



「私はただの後輩ですか」


気づいたら心の声が漏れていた。



「え?」

「あっ、いや、なんでも……ジュースなくなりそうですねっ」


我に返り、慌てて誤魔化す。


「あー、うん、そうだね」


絶対聞こえてたはず。

それなのに、村井先輩は私の心の声に対する返事はしてこなかった。



ただの後輩だって、はっきり言われるのが怖くて誤魔化したけど。

でもこれって、遠回しに振られたようなものじゃ…


私のこと、少しでもいいなと思ってくれてたら、あんなこと言わないよね…?