あ、これ…。

ふと目に入ったコーナーに、私は足を止めた。



放課後、部活が休みの愛ちゃんと寄り道した駅ビルのCDショップ。

今どきサブスクで気軽に聴けるけど、好きな音楽のCDは手元に持っていたいなぁ、と私は思う。

だから、たまにこうして買いに来たりする。


今日も欲しいものがあって、探しながら歩いていたら、あるアーティストのコーナーが目に入って、思わず足を止めていた。



これ…名倉くんがよく聴くって言ってたアーティストだ。

洋楽系、私はあんまり聴いたことなかったけど、サブスクで聴いてみたら、ノリが良くて結構聴きやすかったな〜。


CD買っちゃおうかな。

買って、名倉くんに買ったよーって報告しよう。


CDに手を伸ばした私は、そこでピタッと動きを止めた。



え……名倉くんに報告しよう、って…。

なに?


無意識の自分の思考に戸惑う。


そんな、まるでカップルみたいじゃない?



私はそっと手を引っ込めて、その場から離れた。









「ねぇ愛ちゃん、一目惚れってほんとにあるのかな」


寄り道からの帰り。

何気なく呟いたら、愛ちゃんはいじってたスマホから顔を上げて私を見た。



「なに、どうしたの」

「いや別に、なんとなくね、思っただけ」

「ふーん、名倉くんのこと?」

「いや、だからなんとなくだって」


否定するほど怪しいと分かってるのに、つい否定してしまう。



「まぁでも、一目惚れして、そこから中身を知っていくうちに本気で好きになるみたいなのはあるんじゃない?」

「なるほど…」

「名倉くんに言われたの?一目惚れしたって」

「いやっ言われてないよ、言われてない。…でも、色々考えても、他に私と仲良くなる理由思いつかないなぁって」


電車でスマホ拾っただけで、こんな風に仲良くなるって、どうしても不思議で。

名倉くんがなんでそこまで私に…って、思っちゃうんだ。


だから、やっぱりそういうことなのかな。

一目惚れなんてされたことないから信じられないけど…



「確かにねぇ。私も前は思いつきで言ったけど、ほんとにそうかもだよね」

「うん…まぁ、別にだからどうってことはないんだけど」


たとえほんとに一目惚れされたんだとしても、私は別に、好きとかそういうんじゃないし。


このまま話を終わらせようとしたら、「それにしても」と愛ちゃんが言う。


「結月、最近名倉くんの話するよね〜」

「え、そんなこと…」


また否定しようとして、言葉を止めた。


そんなことあるかもしれない。

自分でも薄々気づいてはいた。

名倉くんのことを考える時間が増えてることに。



「私は全然いいと思うよ」

「…?なにが?」

「好きな人が変わっても、いいんじゃない?」

「えっ!いやそういうんじゃ」


愛ちゃんの言葉に驚く。


「好きとかそんなんじゃ」

「じゃあさ、結月にとって、名倉くんってどんな存在?」

「……」


私にとって名倉くんって…なに?



ひょんなことから仲良くなった後輩。

友達でもなければ、彼氏でもなくて。
もちろん好きな人じゃない。

私が好きなのは村井先輩。

それは変わってない。


はずなのに…


自分で自分がわからないよ…。

自分の中の小さな変化に、私は戸惑っていた。



そんな中、村井先輩との関係が一気に動く出来事が起きた。