つぐなえない罪


 結局、あんまり寝れなかったな、と思いながら、階段を降りる。
「おはよう、ユウちゃん。私、今日パートで出るの早いから。ご飯は、冷蔵庫にある、って瑠々に言っておいてくれない?」
「おはよう、ございます。はい、分かりました。・・・じゃ、走ってきます」
 沙智江さんは、火曜と木曜が仕事なのだ。瑠々は、あまり早く起きてこない。だから、沙智江さんがパートの日には、沙智江さんは、瑠々と会わずに仕事に行ってしまうのだ。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
  ガチャッ バタン
 家を出て、すぐに右に曲がる。
 今日も、あのコースで行くか。

「ただいま」
「おかえり、柚香。ばあちゃん、買い物行ったよ。瑠々はまだ寝てる」
 家に帰ると、瑠姫斗が出迎えてくれた。
「そっか。・・・ありがとう」
「ううん、大丈夫。なんか、瑠々に伝えておくことって、ある?柚香、俺より先に出ないとだし」
 瑠姫斗は、いつも優しい。私が、妹でなくても。
「えっとね・・・。沙智江さんに、ご飯は冷蔵庫にある、って伝えてといて、って言われて。それくらい、かな」
「そっか、なら俺が伝えとくから、柚香は早く学校行きな。俺、今日午後授業だし」
「えっ、い、いいの?」
 私はなんだかんだいつも、瑠姫斗に迷惑をかけていると思う。
「いいよ〜。俺にも甘えてよ。・・・妹みたいなもん、なんだから、さ」
 『妹みたいなもん』か。そうだよね。
「じゃ、お言葉に甘えます。私、ごはんと弁当作るから、先食べといてね」
 そう言って、私はトースターにパンを入れる。
 ちなみに、瑠々はおにぎり、瑠姫斗はコーンフレークだ。全員の朝ごはんを作るのは大変だろうから、私はいつも自分で作っている。
「先食べるわ。いっただっきまーす」
 冷蔵庫から、冷凍していた、ご飯を取り出して、解凍する。ふりかけも準備する。
 あと、野菜。私の弁当は、二段弁当。ただ、あんまり量は多くない。
 そうこうしているうちに、パンが焼けた。
 仕方ない。
 マーガリンをぬって、少しだけパンをかじる。
「柚香、弁当やっとくよ。食べなよ、ごはん」
「でも・・・。この前だってやってもらったじゃん。さすがに悪いよ」
 この前・・・っていうのは、中学のとき、のことだ。弁当を作ってもらっちゃったんだよね。
「いいからいいから」
 そう言いながら、キッチンにやってくる、瑠姫斗。
「貸して。卵焼き、作るから」
 冷蔵庫から出していた卵を割って、卵焼きを作ろうとする、瑠姫斗を見て、私はなんだか、ものすごく申し訳ない気持ちになった。
「なに突っ立ってんの。早く食べなよ」
「あっ、う、うん」
 ダメだ。考えないようにしよう。
 瑠姫斗は、良かれと思ってやってくれているのだから。
 やりたくて、やっているのだから。
「じゃ、いただきます」

「ごちそうさまでした」
 食べ終わって、お皿を洗っていると、
「はい。出来たよ、弁当。袋に入れとくね」
「あ、ありがとう」
「いえいえ」
 美味しそうなお弁当だな〜と思う。
「ごめんね、迷惑かけて。・・・あっ。瑠々、起こしてくるね」
「大丈夫だよ。俺起こしてくるし」
 でも・・・・・・。
「ほら、手止まってるよ。早く皿洗いなよ」
 瑠姫斗は、そう言って2階に上がって行く。
 はぁ。ほんとに何なんだか。

「ユウちゃん、いってらっしゃい。気をつけてね」
「柚香、いってらっしゃい」
「行ってきます」
 おばあちゃんと瑠姫斗に見送られながら、学校に向かう。
 今日も、あの洞窟に行こう。
 私はそう決めた。