つぐなえない罪


許斐 柚香の視点

「はあ〜・・・」
 今日は、いよいよ、哉人くんに"あのこと"を話す日。
 ものすごく緊張する。
 ・・・というか、まだ心が決まっていない。
 今日、私は本当に言えるのだろうか。
 逃げるのかな?私。
「なにため息ついてんの、ユウ姉。なんかあった?」
 瑠々に心配されるなんて・・・。
「え?あ、ううん。なにも・・・。っていうか、今日は早いんだね、起きるの」
「なんか、目覚めちゃって」
「そっか」
 瑠々は少し、沈んだ顔になる。
「なに朝から落ち込んでんの。せっかく早起きできたんだから、もっと笑顔でいろよな」
 瑠姫斗がカーテンを開ける。
 空はどんよりとしていた。
 全く光がない。
 ・・・・・・今の瑠々みたいな空だな、と思う。
「・・・柚香も大丈夫か?」
「えっ?あ、うん。大丈夫」
 大丈夫、大丈夫。
 なんとかなる。
 嫌われるかもしれないけど。
 でも、多分大丈夫。

「おはよう、許斐さん」
「おはよう。小早川さん」
 自分の席に座る。
 机の中に教科書を入れる。

  ガサッ

 中から音がした。
 手を入れてみると、紙が入っていた。
 その紙を取り出す。

 『許斐柚香さま

  昨日は、すみませんでした。
  私、ちょっとカッとなっちゃって。
  でも、昨日のは、確かに私の本心です。
  嫌われたかもしれないですけど、
  私は、少しスッキリしました。

  もし、良かったら、
  また、もう一度、話がしたいです。
  私は、いつでも構いません。

  よろしくお願いします。   木南清佳』

 木南さんからの手紙だった。
 ・・・確かに、私も、もう少し話がしたかった。
 なんで知ったのか、とか、神田さんのこと、とか。
 他にも色々。
「許斐さん?それ、何?」
 ギクッ!
「え、っと・・・。メモ!ちょっとした、メモ。持って帰るの、忘れちゃって・・・」
 どうだろう、誤魔化せたかな?
「そうなんだ。ま、確かに忘れちゃうよね、メモって」
 良かった。
 上手く誤魔化せたみたい。
 木南さんが、席に座る。
 私は、ポケットの中から、メモ帳を取り出す。
 紙を破る。
 そして、文字を書く。
「木南さん」
 木南さんが振り向く。
 紙切れをわたす渡す。
 木南さんは、それを受け取ると、広げて読み始めた。

 『私も、もっと話したいと思っていました。
  色々聞きたいです。
  明日とか、どうですか?』

 木南さんは、顔を上げて少し微笑むと、うん、と頷いた。
 良かった・・・。
 断られたら、どうしようかと思った。
 私も少し、微笑み返す。

  キーンコーンカーンコーン

 と、そこでチャイムが鳴った。