つぐなえない罪


「哉人くん、あのね。・・・あれ?」
 あの洞窟に行くと、誰もいなかった。
 どこか出かけたのかな?
 そう思い、椅子に腰掛ける。
 ・・・あれ?
 前まで、こんな椅子あったっけ?
 なかったような気がする。
 ・・・まあ、いいか。
「・・・あれ、いたんだ、柚香」
 振り向くと、哉人くんがいた。
 ・・・なぜか、スーツ姿で。
「あ、うん・・・」
 いざ、哉人くんを目の前にすると、勇気が出なくなる。
 やっぱり怖い。
 哉人くんに、嫌われたくない。
 哉人くんも、人を殺したことがある。
 だから、普通の人に話すよりは話しやすいんだけど。
 でも、やっぱり・・・っ。
「ど、どうした?」
「かっ、哉人くん!」
 怖い。
 でも、いつかは言わないといけない。
 だけど、今は、言える気がしない。
 だから・・・っ。
「明日、話したい事があるの」
「話したい事?」
 哉人くんは、不思議そうな顔をする。
 でも、すぐに真面目な顔になる。
「分かった。明日だな」
「うん、明日」
 とにかく、心を決めないといけない。
 明日、絶対に話さないといけない。
 私は、密かにそう思った。