「あれ、もしかして、柚香ちゃん?」
「か、神田さん⁉︎」
洞窟に向かう途中、私は、男の人に話しかけられた。
「やっぱり、柚香ちゃんだ。久しぶり」
「お久しぶり、です」
男の人ーー神田 司(かんだ つかさ)さんは、私の知り合いだ。
知り合い、っていうか、なんというか・・・。
「柚香ちゃん、元気だった?」
「はい・・・」
神田さんは、刑事だ。
「そっか・・・。名前、変えて良かったか?」
「・・・はい。もう、誰も気にしてない、し。・・・というか、多分みんな、分かってないと思うし」
「そうか・・・」
名前を変えて、良かったかと問われると、正直、なんとも言えなかった。
せっかくお母さんにつけてもらった名前だったのに、とか。でもやっぱり身を守るためには必要だったよな、とか。
「ま、これからも気を付けて」
「神田さんも、お身体お気を付けて」
「おじゃま、しま、す」
洞窟に入ると、誰もいなかった。
その辺に座る。
近くにあった本を手に取る。
『闇に葬られた真実~ある事件を追った刑事~』
・・・こんな本読むんだ、哉人くん。
「何してんの?」
「か、哉人くん!どこ行ってたの?」
「いや・・・、ちょっとね・・・・・・」
哉人くんは、私の向かいに座る。
「なに、本読んでたの?」
「あ、ううん。ちょっと見てただけ」
哉人くんは、『闇に葬られた真実~ある事件を追った刑事~』を鞄にしまう。
「それ、どんな本なの?」
「・・・ある刑事が、事故だと判断された殺人事件を捜査する話。フィクションだよ」
ある刑事が、事故だと判断された殺人事件を捜査する話・・・・・・。
なんか、ちょっと面白そう。
「これ、シリーズ作品で、『闇に葬る真相~秘密裏に行われた事~』とか、『闇に葬った事実~あれは事故だったのか~』ってやつがある」
そういえば、この前、江良木が大声で「『闇の中の事実~あれは事故だったのか~』は面白くない」って言ってた気がする。
なんか、自殺か事故か、みたいな話だった、らしい。
面白そうなんだけどな。
何が気に食わないんだろう。
「それ、面白いんだよね?」
「うん。・・・読む?」
「えっ!?いいの?」
「うん。3冊とも貸す」
哉人くんは、優しい。
妹さんのことも、・・・私のことも。
多分、いつか出頭するんだと思う。
それがいつかは、分からないけれど。
でも、その前に言っておきたいことが2つある。
一つ目は、哉人くんへの思い。好きだって伝えたい。
そして、二つ目は・・・。
私の、"重大"な秘密
「どうした、柚香」
「あっ、ううん。なんでもない。ありがとね、哉人くん。本、絶対に返すから」
いけない いけない。
ボーッとしちゃった。
今は、哉人くんとの大切な時間。
ちゃんとしないと。
「うん。・・・じゃ、今日はなんだ」
「あっ、そうだった。今日ね、木南さん、っていう子が、生徒会のに立候補したんだ。中等部からの持ち上がりの子でね。私の前の席の子なの」
「・・・あぁ、そういえば、このまえそれでケンカした、って言ってたよな。確か・・・江良木、だったっけ?」



