戻ってきたよ!許斐 柚香の視点
『柚香は、私を大切に思ってなかったんだね。親友だと、思ってくれてなかったんだね』
私は、史那を傷つけてしまった。
大切な、大好きな、"友達"なのに。
・・・違うか。"親友"か。史那が求めているのは。
でもね、史那。
私、史那に言ってない事、あるんだよ?
史那は、"あのこと"、嘘だと思ってるんでしょ?
違うの。あれは、本当の事なの。嘘じゃないの。
・・・そんなこと知ったら、史那は、どう思う?
軽蔑するかな?友達ですら、いられなくなるのかな?
そんなの、そんなの・・・っ。
「嫌だよ・・・」
「何があったんだよ、お前は」
「何って・・・」
友達と喧嘩しました。
とは、言いにくい。
なんか言いにくい。
・・・うん。なんか言いにくい。
「ま、言いたくないなら、言わなくていいけど」
・・・・・・っ。
思い出した。
史那はいつも、『言いたくないなら、言わないで。言いたくなったら言ってよ』と言ってくれてた。
"あの事件"の後も。
『だって、親友って思ってること、なんでも話せるから、親友なんでしょ?私、史那に隠してること、いっぱいあるし』
私は、最低な事を言った。
史那はきっと、思ってることをなんでも言い合えるのが、親友だとは思っていなかったんだ。
私は、史那と、違ったんだ。"親友"の基準が。
「友達と、喧嘩、したの。・・・でも、今なんとなく分かった。なんで、こうなったのか。なんで、意見が食い違っちゃったのか」
私、多分心のどこかで、史那を、親友だと思ってた。
でも、見ないふりをしてた。その気持ちを。
「私、ほんとは、史那と同じ考えなのかもしれない。・・・思ってること、なんでも言い合えなくても、親友って」
でも私は、大切な人をつくりたくなかったから、だから、違う考えを、ねじこんだ。
だって、私、昔は史那のこと、親友だと思ってたもん。隠してることはあっても。
『思ってることをなんでも言い合えるのが親友』という考えは、きっと私の考えじゃない。
"誰か"の考えだ。
本の登場人物?身近な人?
それは、分からないけれど。
でも、きっと・・・・・・。
「おい、おーい。柚香?」
「あっ、ご、ごめん」
ぼーっとしてた。
ダメダメ。もっとしっかりしないと。
「まあいいけど。・・・大丈夫か?」
「う、うん」
・・・っていうか、哉人くんって、意外と優しいよね。
・・・妹さんがいたからかな。
守らないといけない、大切な、妹さん。
「あっ、そうだ。哉人くんって妹いるんだよね?名前、なんていうの?」
「・・・気になる?」
「うん」
お兄さんの名前は、聞いたし。
「・・・絆凪(きずな)。・・・俺がつけた」
南雲、絆凪ちゃん。
可愛い名前だな〜。
「哉人くんって、ネーミングセンスあるんだね」
「・・・・・・妹はさ・・・絆凪は、楽しみにしてたんだよ。妹の名前つけるの」
・・・え?
「もう1人、できる予定だったんだよ、妹。・・・名前は絆凪がつけることになってた」
できる予定だった、ってことは、できなかった、ってこと?
「俺が、母さんが産む前に殺したから」
ズキン。
「絆凪は、心依(こい)って決めてて・・・。でも、俺のせいで、つけられなかった。・・・名前で呼べなかった。・・・俺、絆凪に合わせる顔ないよ」
そうか。
哉人くんは、ずっと責任を感じていたんだね。
人の命を奪ったこと、妹さんから、幸せを・・・楽しみを、奪ってしまったこと、祖父母に、多大な迷惑をかけてしまったこと。
全ての責任を、ずっと抱えていたんだね。
・・・私も、そろそろ哉人くんに、話さないといけないのかもしれないな。"あのこと"。
そう思いながら、私は静かに涙を流した。



