つぐなえない罪



  尾見西 史那の視点

「ね、柚香。今度、あのカフェ行かない?」
「あぁ、ごめん。今日はちょっと・・・」

「柚香、明日よかったら、カフェでおしゃべりしない?」
「ごめん、ちょっと最近用事があって・・・。ちょっとの間、遊べないか」
「そっか」

 なんだろう、この違和感。
 ・・・避けられてる? 違う。柚香は避けてない。
 でも、何かがおかしい。
 聞きたい、柚香に直接。
 だけどダメだ。人には、話したくないことだってある。
 だから私は、親友の柚香とは、『言いたいことは言い合えて、言いたくないことは、言わないでいられる』っていう関係をつくりたい、って思ってる。
 でも、やっぱり気になる‼︎
 なんで最近一緒に遊んでくれないの?とか、何を隠してるの?とか、めっちゃ聞きたい。
「じゃあ聞けばいいじゃん。史那の言ってることは、ちょっと矛盾してるんだよ」
「だあって〜。無理に話してほしくはないし。・・・でも、気になるし」
 私の悩みを聞いてくれているのは、2番目の兄・京耶。
 私の良き相談相手だ。
 ・・・利仁には、ちょっと言いにくいんだよね。
「お待たせしました。オレンジジュースと、ホットコーヒーです」
 私はコーヒーを飲みながら、柚香と初めて会った日のことを思い出す。

「おはよーございまーす!」
 小学校の入学式、みんながキラッキラのランドセルと、ニッコニコの笑顔の中、1人だけ、ちょっと暗いオーラを出している子を見つけたのだ。
 『畑野小学校 入学式』の看板を見ている女の子。
 周りには、母親っぽい人がいるけど、なんだか疲れているみたい。
 と、母親らしき人が、その子に話しかけて、離れていく。
「ふぅちゃん、どうしたの?」
「ねぇママ、ちょっと・・・」
 何かを察した私の母親は、にこっ、と笑いかけて、
「お母さん、トイレ行ってくるね」
  と言って、離れていく。
 よし!と気合いを入れて、その子のもとへ向かう。
「こ、こんにちは。おなまえは?」
「ふぇっ?わ、わわわわ私はっ、咲生。弓川、咲生(ゆみかわ さき)」
 弓川 咲生と名乗ったその子は、少し怯えているみたいだった。
「さきちゃんっていうの?かわいいなまえだね?わたしはっ、ふみな、っていうの。おみにし、ふみな」
「史那、ちゃん」
 この頃から柚香は、大人っぽくて、賢かった。
「よろしくね、さきちゃん」
「う、うん。よろしく、お願いします」

「弓川、咲生です。趣味は読書で、好きな教科は、社会科です。よろしくお願いします」
「あっ」
 私と柚香は、1年のときは一緒のクラスだったんだけど、2年、3年と違うクラスだったの。
 だから、4年生になって、同じ4組になって、すっごく嬉しかったのを覚えてる。
 名字が、"尾見西"と"弓川"だから、席が前後とかでもなかった。
「咲生ちゃん、私のこと、覚えてる、よね?」
「うん。尾見西、史那ちゃん、だよね。1年の時一緒だった」
 咲生ちゃんが、覚えてくれてた!って当時はすごく喜んで、家でめっちゃ飛び跳ねてた。
「史那ちゃん、ペア組もう!」
「咲生ちゃん一緒にやろー」
 ペアになる時には、必ず柚香と一緒だった。

「え、咲生ちゃん、なんで帰るの?」
「あー、まあ、色々あって。・・・ここだけの話、だよ?入院してたお父さんが死んじゃって・・・」
「そう、なんだ」
 柚香の父親は、私たちが5年生の時に亡くなった。
 柚香の母親は、私たちが6年生になる前、つまり春休みに亡くなった。
 その後、色々あって、名前を変えて、おばあちゃんの養子?になったから、名字が変わって、許斐 柚香になったんだけど。

「史那ちゃん、私、言ってなかったんだけど、中学受験するの」
「ぎょえっ⁉︎ウソ‼︎」
 柚香に受験すると言われたのは、6年の2学期。
 私、柚香と一緒の学校に行くんだ!ってなんか張り切っちゃって。
 まあ、なぜか受かったんだけど、その後が、結構ボロボロ。赤点じゃないけど、数学は毎回平均点以下だったり。
 でも、私はそれで良かった。
 成績が悪くて、親に怒られても、追試になっても、私は、柚香と一緒だから、と頑張った。
 3年生になると、私は、今までよりも勉強を頑張った。柚香が、高校受験をする、って知ったから。
 正直、私は、麗埜女子学院(うるわのじょしがくいん)に、あんまり馴染めていなかった。
 だから、高校は変えようかなーと思っていた。
 ちょうどいいじゃん!ってなったんだけど、柚香が受けるのは、白ノ蘭の特進創造総合科だって知って、無理だ、って思った。
 だから、私は一般総合科を受けたんだ。
 ・・・先生にも、特進創造総合科は無理だ、って言われたし。

 結果、両方受かって、無事に入学。
 友情も、勉強も、絶対に上手くいく、って思ってたんだけどな〜。