「ユウちゃん!今帰り?」
家の近くのコンビニで、お菓子を買って帰っていると、沙智江さんと出会った。
これから、次の職場に向かうところらしい。
「ユウちゃん、少し話さない?」
沙智江さんと向かったのは、近くの喫茶店『ネロ』だった。
「ねぇ、ユウちゃん。最近、どう?眠れてる?」
「えっ?」
「だって、もうすぐ、命日でしょう?お父さんと、お母さんの」
命日・・・。
「ユウちゃん、いつもガーベラを買ってるでしょう?」
知ってたんだ・・・。
私はいつも、ガーベラを供えている。
「15本のガーベラの花言葉は、『ごめんなさい』です。私は、一生2人に謝らないといけないから・・・」
そう。
私は、一生2人に謝らないといけない。
絶対に、忘れちゃいけない、"あのこと”。
「ユウちゃん。あれは、ユウちゃんのせいじゃないよ。ユウちゃんが責任を感じる必要はない」
「でも、あれは・・・」
私のせいなの。
私のせいで、お父さんは死んで。そのせいで、お母さんは心に傷を負って、死んだ。
全部、私のせい。
私の、せいなのだ。
許されない、罪なのだ。一生背負わないといけない。
「ユウちゃん。ユウちゃんは、自分のせいで、紗奈江(さなえ)が心に傷を負って、自殺した、って思っているでしょう?」
紗奈江っていうのは、私の母親の名前だ。
「でも、ユウちゃんだって、"傷”あるでしょう?」
「・・・・・・っ」
ずっと、見て見ぬ振りをしてきた、私の心の傷。
自分のせいで、血のつながった家族が死んだのだから、傷ついちゃいけないと思ってた。
「ユウちゃん、無理しないでね」
「やっほー、柚香。待ったよ〜」
結局、哉人くんのところに一回も行けずに、土曜日が来た。
「ごめん、待たせて」
「ハハッ。ウソウソ。全然待ってないよ!っていうか、まだ待ち合わせの5分前だし」
2人で、ヒナタモールの、ラパン-ノワールに向かう。
「いかがですか〜。今日、ご契約いただきますと、電話代が、5年間無料に!・・・おっ、そこのお姉さんたち、いかがですか?」
ティッシュを配りながら、めちゃくちゃしつこい営業をしている、男の人。
「何あの人。ウザッ」
ラパン-ノワールについてから、愚痴りだす、史那。
するとそこに・・・。
「あれっ、咲生と史那じゃん。久しぶり」
え・・・・・・。さ、き?
えっ、誰??
「誰ですか、あなたは」
史那も、同じようなことを考えていたようだ。
「俺だよ、俺!遠藤 理月(えんどう りづき)!小学校一緒だったじゃん‼︎」
「えっ!?あんた、あのりっちゃん⁉︎全然『りっちゃん』要素ないじゃん!」
彼は、りっちゃんと呼ばれていた、同級生だった。
可愛らしかった、あの時とは、大違いだった。
「あ、思い出した?咲生も」
「ストーップ‼︎あ、あんた。ちょっとこっち来て」
史那が、"りっちゃん"を連れて行く。
少し話をして、戻ってくる。
彼は、少し気まずそうな顔だった。
「あっ、そうだ。あの時、ユズの香水、ありがとね!史那には、レモンの香水あげてたよ、ね?」
私は、彼にユズの香水を貰っていた。確か、4年の時の、誕生日に。
それ以来私は、ユズの香水をつけるようにしていた。
でも、なんでユズだったんだろう?
不思議だな〜。
「そうそう。私も貰った〜。・・・っていうか、なんで呼んだらいいの?今、『りっちゃん』って呼ぶの、なんか変だし」
「普通に理月で良いよ」
理月・・・。理月・・・。
頭の中で、シュミレーションする。
うん。バッチリ!
「じゃあ、理月。よく分かったね、私たちだって」
「史那は、いたらすぐ分かるから」
理月は、小学生のときから、史那に片想いしてるんだよね。
確か、卒業式の時に告白して、フラれてた、よね。
「ねぇ、もう違う人好きになれば〜?私、絶対好きにならないよ〜」
史那・・・・・・。理月が可哀想だよ。
「うっ、ぐさってくるわ〜」
理月がおどけたように言う。
「理月、せっかくだし、一緒に食べる?」
「え、マジ?じゃあ、食べる。俺のおごりで」
理月が、当たり前のように、史那の隣に座る。
「ゔぇっ‼︎理月、おごってくれんの⁉︎いつの間にお金持ちになったの?」
「金持ちって・・・。高校入ったし、バイトしよっかなって」
私たちの学校・白ノ蘭学園は、バイトが禁止なのだ。
大学入ったらいいらしいけど。
先生の許可は必要らしい。
「いいな〜。うちらの白ノ蘭は、バイト禁止だもん!理月、どこ高なの?」
「ふーん、2人とも、白ノ蘭なんだ。俺は、啓英高等学校(けいえいこうとうがっこう)だよ」
「意外と賢いんだ〜」
啓英は、この辺では、まあまあ良い学校。
白ノ蘭よりは、断然下だけど。
「史那が言うなよ。馬鹿にしてんの?」
「違うよ⁉︎ただ・・・。理月って、昔から、そんな頭良かったっけ、って思っただけ、だけど」
ほんとにその通りだ。
理月は、小学校の時、成績は中の下くらいだった。
「頑張ったんだよ。将来の為にも」
「あぁ〜、理月って、母子家庭、だったもんね」
理月は、物心ついた時にはもう、父親がいなかったらしい。
だから、ずっと母親と2人暮らしなんだって。
「うん・・・。ま、中学生になってからは、母さんのお兄さんとかがたまに来てくれたりして、楽だったんだけど・・・。でも、なるべくたくさん稼ぎたいな、って。恩返しもしたいし」
恩返し、か・・・。
私はもう、お母さんたちに恩返しできない。
産んでくれてありがとう、とも、育ててくれてありがとう、とも言えない。
「あっ、なんかごめん。ちょっと暗い話になっちゃって」
「あ、ううん。大丈夫だよ」
思い出す、はめにはなったけど。
「失礼します。こちらアイスコーヒーです」
「あっ、私です」
「で、こちらが、紅茶です」
「私です」
「すみません、カフェラテ1つお願いします」
「はい、分かりました」
私の前に、美味しそうな紅茶が置かれた。
・・・史那って、ブラックコーヒーなんだ。
「史那、苦いの苦手じゃなかった?」
理月が、私の気持ちを代弁してくれた。
「こっ、克服したの!」
なんか怪しいけど。
「い、いいじゃん!ケーキ来るまで、おしゃべりしとこ!」
「えっ!!ケーキ頼んでたの⁉︎」



