悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜






「おはよう、ステラ。昨晩はよく寝れたみたいだね」

「…お、おはようございます、ロイ様」



にっこりと優しく私に微笑むロイに私は何とかロイと同じように笑う。
だがきっと上手く笑えていない。
起きて急にスイッチを入れるのはさすがに無理だ。



「少し遅めだけど朝食にしよう。もう準備はできているよ。ステラも顔を洗っておいで」



ベッドに座り続けている私の腕をロイが引いてこの部屋の洗面台までエスコートする。
そして私はロイに何故か見守られながら顔を洗い、そのまままたエスコートされて、ロイと一緒に大きなソファへと腰を下ろした。

私とロイが腰掛けるソファの前に置かれているテーブルには朝から食べやすそうなフルーツやサラダを始め、他にも肉料理や魚料理など様々なものが並べられている。
私はその中からとりあえず目に入ったりんごを口に入れた。



「…私、昨日の記憶が全くないんですが」



先ほど口に入れたりんごを咀嚼して飲み込んだ後、ロイに疑念の視線を向ける。

昨日は慣れないことばかりですごく疲れてしまい、突然寝てしまった…とも考えられるが、あの意識の失い方は全然自然ではない。まるで薬を盛られたかのように強制的に眠らされた感覚だった。
もし薬を盛られたのならばその犯人は十中八九今私の横で私と同じく朝食を食べているこの男だろう。



「そうだろうね。昨日のステラはあっという間に寝ていたからね。きっと昨日はいろいろなことがあって疲れていたんだよ」

「…そうですか」



労うように私を見るロイに私は表向きだけにこやかに笑う。だがしかし内心では疑念の視線をロイに向け続けていた。

全くロイの言葉は信用ならない。
だからといってロイが私に本当のことを言うとは思えない。
そう判断した私はロイから真実を聞き出すことをさっさと諦めた。