悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





ここ最近、夜のセスの仕事に付き合い、寝ずに本を読み続ける私に、セスは「俺に気は使わないでください。寝たい時に寝てください」と言うのだが、正直、毎日ベッドの上にいては、眠りたくても眠れなくなるのだ。
それにセスが私の為に選んだ本はさすが私を知り尽くすセスの選んだものだけあって寝る間を惜しんで読み続けたいほど面白かった。

先ほどはセスにバレてしまったので、今度はセスにバレないように本を読むふりをしながら、本越しにこっそりとまたセスを観察する。

暖色の照明の光を受けて、光る色素の薄い白い髪から覗く、空を溶かしたような水色の瞳が真剣な眼差しで書類を睨んでいる。

あの美しい空色の瞳が私を見つめる時だけ光を失う。
リタ代役時には見たことのないあの仄暗い瞳こそが、今のセスの不安定さを物語るものだった。

何を不満に思い、何が不安でセスがあそこまで歪んでしまったのか、正直わからない。だが、不安であるなら安心させればいいのだ。
大丈夫だと思わせればいい。
そして安定したセスを私の味方にする。

ここで生活していれば死ぬことはないのかもしれない。
しかし、全てを管理され、世話されて生きていることが、果たして本当に生きていると言えるのだろうか。
ここでの私はただセスに可愛がられている人形だ。
一生人形としてここで過ごすなんてそんなの嫌だ。

私は帝国外へと逃げ、自由気ままに生きるのだ。
その為には、やはりセスを精神的に安定させ、安心させる必要がある。
セスを刺激しない。セスの要求はなるべく飲む。
少しずつだが、そうやってセスを安定させ、セスの信頼を得る。

未だに仕事を続けるセスをひと睨みし、私はそう決意を固めた。

その後、そんな私の視線にまた気づいたセスが、「どうされましたか?」と聞いてきたので、私は心臓が止まりそうになった。
何故、セスはこちらを一切見ていないのにこちらの視線に気づくんだ。