「アナタならきっと帝国外へと逃げ果せると思っておりました。帝都から一番近い国境はマルナです。いろいろな可能性もありましたが、俺はアナタがマルナを選び、マルナから逃げようとするだろうと推測しました。なので検問所の職員に少々賄賂を渡し、協力して頂いたのです。アナタが検問所を通る時にアナタの自由を奪う魔法薬を使って欲しい、と」
クスクスと楽しそうに笑い、セスはその美しい空と同じ色の瞳を細める。
その瞳はよく見ると、どこか仄暗く、私の知っているセスではないようだった。
やられた。
セスの方が一枚上手だった。
だんだんと意識が薄れていく中でぼんやりとそう思う。
やがて私の体を支えていた腕にさえも力が入らなくなり、私はその場で倒れかけた。
だが、私の体はいつの間にかこちらに来ていたセスによって抱き止められた。
「ああ、俺のお嬢様。やっとこの手に入れられた。さあ、一緒に帰りましょうね」
まるで宝物でも扱うかのように丁寧に優しくセスが私の頬を撫でる。
意識が霞んでいく中、私が最後に見たものは、それはそれはもう満足そうにこちらを見つめるセスの空色の瞳だった。



