まずは新しく住む場所を探さなければならない。それから仕事もだ。
リタ代役時にいろいろなスキルを身につけたので、職には困らないはずだ。
剣術の腕を活かし、騎士や護衛になるのもいいし、学院で習った経営学を活かし、店を持つのもいいだろう。
今の私は何にでもなれるし、何でもできる。
目の前に広がる帝国ではない、私の命を脅かす者のいない国の街に私は一歩一歩足を踏み出す。
心が躍る。未来が明るいとはこんなにも素晴らしく、わくわくするものなのか。
「ステラ様」
浮かれていた私の目の前に誰かが現れる。
誰かではない。あれは…
「…セス」
街の中から私の前に現れた人物はリタの専属執事であるセスだった。
あんなにも晴れやかだった気持ちが、一気に曇ってしまう。
セスと私の間に緊張感が走った。
「ずっとお探ししておりました」
白い色素の薄い一つにまとめられた長い髪をゆらゆらと揺らし、セスが嬉しそうにこちらへと近づく。
セスはルードヴィング伯爵家の者だ。
もし今セスに捕まれば私の未来はない。死んでしまう。
今すぐ逃げ出したいが、私を知り尽くしているセスだ。
何を準備し、ここへいるのかわからないので、よく状況を見極めて行動する必要がある。
さもなくば、すぐに捕まってしまうだろう。



