「それより何故ステラがここにいる?」
しばらく私を撫で、私が落ち着いてきたことを確認すると、ユリウスは相変わらず冷たく、だが、どこか不思議そうに私を見つめてきた。
何故って言われても。何故なのだろうか。
心配だった、だから助けに来た、それだけなのだが。
どんな言葉で今の状況を説明すればよいのか、私は少しだけ考え、数秒後、ゆっくりと口を開いた。
「…ユリウスの専属護衛だからだよ。だから助けに来た」
以前、ユリウスに言われた〝専属護衛〟の言葉を借りて、私は優しくユリウスに微笑む。
するとユリウスは「…ああ、そうだったな」とどこか嬉しそうに笑った。
「ユリウス、今、ジャンが騎士を集めているからこの鉄格子も…」
「そこで何をしているのかしら」
ユリウスに今の状況を話そうとした私の後ろから酷く冷たい声が聞こえる。
その声にすぐに振り向くと、そこには燃えるような真っ赤な癖毛が特徴的なアリスがこちらを睨みつけながら立っていた。
「扉が壊れた気配がしたから来てみればあれをしたのはアナタなのね?」
ふわりと笑ってこちらに近づくアリスの手には短剣がある。
アリスは笑っているが、本当に笑っているわけではない。見ているだけでアリスの怒りの感情が伝わってくる。
「気をつけろ、ステラ。アイツは魔法薬を使う。何をされるかわからない。できるだけ空気を吸うな」
「…うん」
アリスには聞こえないようにユリウスがそう私に囁き、私はそれに真剣な顔で頷いた。
…空気を吸うなって言われても無理だが、なるべく最善は尽くそう。
魔法薬が効く前に決着をつける…とか。
アリスと私の間に流れる張り詰めた空気に私の額から汗が一粒流れる。
そして私はグッと剣を握る手に力を込めて、いつでも応戦できるように軽く腰を落として構えた。



