「凪が小学一年生くらいの時だったかしら。仕事中に凪から職場に電話がかかってきたことがあってね。どうしたのかと思ったら"お母さん、何時に帰って来るの?"って、、、泣くのを我慢しているような震えた声で電話をかけてきたあの時の事は、今でも忘れられなくて胸が締め付けられるわ。」
凪のお母さんはそう言うと、自分の胸に手を当てた。
「だから凪には、、、幸せになってもらいたいの。今まで寂しい思いや我慢をさせてきてしまった分、わたしのこと何て気にしないで、自分の人生を楽しんでもらいたいのに、わたしったら、、、凪に心配ばかりかけて、、、ダメな母親よね。」
お母さんは切なげな表情のまま小さな溜め息をつき、それからわたしの方を向くと、「あ、こんな話しちゃってごめんなさいね。」と悲しい微笑みをわたしに向けた。
「お母さんは、、、ダメな母親なんかじゃないですよ。お母さんは凪の為に必死に働いてきたんですよね?それは、凪にちゃんと伝わっています。」
「えっ、、、」
「こんな子どもを育てたこともない小娘に言われても嬉しくないかもしれませんが、凪はとても素敵な人です。それはお母さんが素敵な人だから、そんなお母さんを見て育ったから、凪も優しくて思いやりがある人に育ったんだと思います。」
わたしがそう言うと、凪のお母さんは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、でもそれをグッと堪えているように「美月さん、、、ありがとう。凪の彼女があなたで良かった。凪を、これからもよろしくね。」と言った。
「はい!あ、お母さん。もしよろしければですけど、、、お母さんの携帯にわたしの番号、登録させていただいていいですか?」
「もちろんよ。」
どうやら、お母さんがいつも首から下げている携帯電話は4つまでしか番号を登録出来ないらしく、1番には凪、2番には病院、3番にはヘルパーさんが登録されていて、4番が空いていたので、わたしの番号を登録させてもらった。
「これで、いつでもわたしに電話をかけれますよ!何かあればかけてくださいね!」
「ありがとう。これでたまに、凪無しの女二人での会話が出来るわね。」
「そうですね!」
そう言って、わたしはお母さんとひっそりと笑い合ったのだった。



