ありふれた日常こそ、尊い。


「ただいまぁ。」

凪は中に入るとそう言い、玄関から入ってすぐ右側にある居間に入って行った。

わたしも凪に続き、中へと入る。

凪のお母さん、どんな人だろう。

そう思いながら「お邪魔します。」と居間に足を踏み入れると、そこにはソファーに座った柔らかい雰囲気のお母さんが座っており、すぐ横には歩行器が置かれていた。

「あら、いらっしゃい。」

そう言って、優しく微笑んでくれる凪のお母さん。

"母親"という存在を随分長く知らないわたしは、何だか温かくて不思議な気持ちになった。

「母さん。こないだ話した、彼女の美月だよ。」
「初めまして、杠葉美月と申します。」

わたしは凪の横で挨拶をし、軽く一礼をした。

「初めまして、凪の母です。息子がお世話になっております。」
「いえいえ!そんなお世話だなんて!」

凪のお母さんも軽く会釈をしながら、挨拶をしてくれると「二人とも、とりあえず座って?美月さん、狭い家で申し訳ないわね。」と言った。

凪のお母さんのお家はワンルームで、ベッドは手すり付きだったり、キッチンには椅子が置いてあったり、所々にお母さんが何とか一人で暮らせるような工夫が見えた。

「凪、美月さんに何か飲み物出してあげてくれる?」

凪のお母さんがそう言うので、わたしは「あ!お構いなく!そういえば、これ。」と言い、持参して来たお母さんへの手土産をテーブルの上に置き、お母さんの方へと寄せた。

「お口に合うか分かりませんが、宜しかったら食べてください。」
「あら、ありがとう。そんな気を遣わなくて良かったのに。」
「いえ!手ぶらでお邪魔するわけにはいきませんから!」

わたしがそう言うと、凪のお母さんは優しく微笑み、「凪、しっかりした彼女さんね。凪には勿体ないわ。」と言い、フフッと笑っていた。